◎「かすみ(霞み)」(動詞)
「かはしひふみ(『彼は』癈ひ踏み)」。「しひ(癈ひ)」は機能が不全化すること。「ふみ(踏み)」は実践すること。「かはしひふみ(『彼は』癈ひ踏み)→かすみ」は、彼(か)は(あれは)、と何かを認知することが衰力してしまうこと(癈(し)ひてしまうこと。機能が不全化してしまうこと)が実践されること(実効的にそうなること)。すべてが、明晰感が失われ朦朧とした状態になります。連用形名詞化は気象現象たる「かすみ(霞)」(朝や夕に日光の作用によりこれが赤みをおびることがあり、この現象を「かすみ」ということもある)。
「春の日のかすめる時に…」(万1740)。
「サテ仏ト病者トノ間遠カラズ、高カルベカラズ。其ノ故ハ、遠キハ㝡後ノ時ハ目カスミテ不見(見えざる)故に。又…」(『孝養集』:「㝡」に関しては『廣韻』に「最:極也、俗作㝡」とある。つまり「最」の俗字であり、「㝡後ノ時」とはその死を迎えるとき)。
「秋の田の穂(ほ)の上(へ)に霧相(きらふ)朝霞(あさがすみ)…」(万88:これは何が問題かというと、霞(かすみ)が霧相(きらふ)と表現されているという点であり、後には春は霞、秋は霧、という印象になっていきますが、古代ではそうした峻別はなされていない。ちなみに、「きり(霧)」と「もや(靄)」は気象庁の気象用語になっていますが、「かすみ(霞)」はなっていません。『今日は霞(かすみ)がたなびき…』などという天気予報は聞いたことがないと思います)。
◎「かすめ(霞め)」(動詞)
「かすみ(霞み)」の他動表現。何かを、「彼(か)は(あれは)」と認知することが衰力する状態にしてしまうこと、癈(し)ひる(識別機能が不全化する)状態にしてしまうこと、を実践すること(実効的にそうすること)。分離を識別しにくい状態にすることも言います。
「黒煙天をかすめたり」(『太平記』:天を天と識別しにくい状態にした)。
「からうじてひとことばかりかすめ給へるけはひ」(『源氏物語』:言語を、なんと言っているのかわかりにくいぼんやりとしたものにした)。
「頭上をかすめ…」(これは分離を識別しにくい状態にしている)。
◎「かすみ(掠み)」(動詞)
「かはしひふみ(『彼は』癈ひ踏み)」。これは「かすみ(霞み)」と同じですが、「かすみ(霞み)」の場合は、彼(か)は(あれは)、と何かを認知することが機能不全化するのに対し、「かすみ(掠み)」の場合は、彼(か)は(あれは)、と人が認知することが機能不全化している機会に乗じて(人に気づかれないように)実践すること、とくに、密かに盗むこと、を意味する。つまり、「かすみ(霞み)」は自分が「かはしひ(『彼は』癈ひ)」になるのに対し「かすみ(掠み)」は他者の「かはしひ(『彼は』癈ひ)」を利用する。
「他の怨敵に侵(かす)まれて、其の国土を破壊せむ」(『金光明最勝王経』)。
◎「かすめ(掠め)」(動詞)
「かすみ(掠み)」の語尾E音化による自動表現。
「宣旨・官符もなくて、公田(クデン)をかすむること」(『愚管抄』)。
「かすめとる」。