◎「かしけ(瘁け)」(動詞)

「かはしけ(皮瘁け)」。「しけ」は、シク活用形容詞「しけし(蕪し)」(その項)の語幹「しけ」が動詞化している表現「しけ(無機能け)」があったものと思われます(この語は後に『日本書紀』にある「ひしけ」という語に関連して触れます)。その「しけ(無機能け)」の意味は、衰力衰弱し粗末な取るに足らない(捨ててもよいような)つまらないものになること。「かはしけ(皮しけ)」は、皮膚がそうなること。皮膚が「しけ(無機能け)」た印象になるということは、生気・活力がなくなったり全体が萎縮して縮んだような印象になることを表す。植物に関して言うこともあり、貧困などの初会的な状態に関して言うこともある。

「衣装(きもの)弊(や)れ垢(あかつ)き形色(かほ)憔悴(かしけ)」(『日本書紀』)。

「先よりある妙園林の…忽然に皆枯れ悴(かしけ)て」(『金光明最勝王経』)。

「憔 カシケタリ  憔悴 ウレフ クタク オトロフ カシケタリ シホム ツヒユ クタハル」(『類聚名義抄』)。 

◎「かしかみ (瘁み)」(動詞)

「かしけけやみ(瘁け気止み)」。最初の「け」は無音化した。「かしけ(瘁け)」は生気・活力がなくなったり全体が萎縮して縮んだような印象になること(上記)。瘁(かし)け、気(け)が止(や)む、とは、瘁(かし)け、なんの気(け)も感じられない、生気が止(や)んでしまった、死んだような、状態になること。

「野火の炎熾(さかん)なるを見るに、草木蕩尽(かしかみ)、唯一叢(くさむら)のみあり」(『金剛般若経集験記』)。

「埣𡉻 …容貇痩豆加留(つかる) 又加志加牟(かしかむ)也」(『新撰字鏡』:「つかる」は「疲る」)。

 

◎「かじけ(悴け)」(動詞)

「カンしけ(寒瘁け)」。「しけ」は、「しけし(蕪し)」(形シク)の語幹「しけ」を動詞化する表現「しけ(無機能け)」があったものと思われます。意味は、衰力衰弱し粗末な取るに足らない(捨ててもよいような)つまらないものになること(上記に同じ)。「カンしけ(寒無機能け)」は、寒さによりそうなること。寒さにより生気・活力がなくなったり全体が萎縮して縮んだような印象になることを表す。

「弾く琴の手はかじけたり雪の内」(「俳句」)。

「かじける。さむがる事…」(『浜荻』)。

◎「かじかみ(悴み)」(動詞)

「カンしけけやみ(寒瘁け気止み)」。寒さにより生気・活力がなくなり全体が萎縮して縮んだような印象になり感覚がなくなり生気が止(や)んでしまった、死んだような、状態になること。これは江戸時代以降の語のようです。

「帰りには寒さの身にしみて手も足も龜(かじ)かみたれば…」(『にごりえ』樋口一葉)。 

 

「梅椿も室咲(むろさき)はかぢけておもしろからず」(「浮世草子」:これは上記の「かしけ(瘁け)」の濁音化。さまざまな資料に現れる仮名遣いは必ずしも正しいとは限りません。念のため)。「梅鉢の松は寒気(さぶけ)に摵(かぢけ)て、千歳の齢(よはひ)あぶなくも」(「滑稽本」:これは上記の「かじけ(悴け)」)。「かじける さむがる事、又草木などの枯れ凋(しぼ)むかたち」(『浜荻』(仙台):これは両語が混用されている)。