「おびやかし(脅かし)」などの「~かし」です。

「わかし(湧かし)」。「わき(沸き・湧き)」の他動表現。その「わ」のW音の退行化。これが沸き上がらせるように動態を発生させることを表現する。「おびえ(怯え)→おびえわかし→おびやかし(脅かし)」。この「かし」による表現は多数あります(つまり、それらの語の語源に関しそのつど登場する語源です)。たとえば「すべらかし(滑らかし)」、「ちらかし(散らかし)」、「ひやかし(冷やかし)」、「やらかし」、「しでかし」、「たぶらかし」、「はぐらかし」、「はしらかし(走らかし)」。「でかし」(できわかし(出来沸かし:でかかし→でかし(例文下記※):詳しくはその項)。「でかした」。疲れさせるという意味の「つからかし(疲らかし)」という表現もあります。「みせびらかし」もある(その項参照)。「わらひ沸かし(笑ひわかし)→わらわかし→わらかし」という表現は特に後世大阪で俗語的に用いられています。

※ 「野火……山ニハワラビ(蕨)ヲハヤウ(早く)テ(で)カサウトテヤクソ(焼くぞ)ヒロイ(広い)野ヲモ火ヲ付(つけ)テヤクソ(焼くぞ)」(『玉塵抄』)。

 

「おどろかし(驚かし)」「うごかし(動かし)」などは、「いに(去に)→いなし」「くち(朽ち)→くたし」などと同じように、それぞれ「おどろき(驚き)」「うごき(動き)」の使役型他動表現です。他動表現は客観的な他へ働きかける動態ですが、使役型他動表現とは、他に何かをさせる、という類型の他動表現です。また、文法では、使役を表現する助動詞は「~せ」「~させ」とされていますが、「~し」「~さし」でも通用します。「待ち→待たせて」でも「待ち→待たして」でも、「止(や)め→止(や)めさせて」でも「「止(や)め→止(や)めさして」でも、通用します。歴史的な資料にもそれはあります。

 

その誦経の文には『なほ思ひの罪のがらかし給へ』と」(『宇津保物語』:逃(のが)れわかし→のがらかし)。

「脛(はぎ)を布のはししてひきめぐらかしたる者ども」(『蜻蛉日記』:めぐりわかし→めぐらかし)。