「カッし(喝し)」。「喝(カツ)」は大きな声・強い声を出すことを意味する(→「一喝(イッカツ)する」:「喝」は『廣韻』に「訶也」とあり、「訶」は『說文』に「大言而怒也」とあります。座禅で警策(キョウサク・ケイサク)で打ちつつ言う『カツ!』がこれ)。「し(為)」は動詞。「カッし(喝し)」は、声を大にして言い・声を強くして言い、のような意。何かを言った後にこれが添えられ、私は声を大にしてそう言う・声を強くしてそう言う、たしかにそう言える、といった思いが表現される(そういう思いが表現される)。たとえば命令に添えられ「起こせかし」(あいつを起こせ(私は声を強くしてそう言うぞ(それほど私の思いは強い)))。「翁のあらむ限りはかうてもいますかりなむかし」(『竹取物語』:翁の生きている限りは、確かに、このようにもいらっしゃられよう:「いますかり」は「いますがり(動)」の項参照)。「『いざかし。ねぶたきに』」(『源氏物語』:さぁ(と私は強く訴える)。眠いから)。「おとと様がよもやかしお殺しなされてよい物か」(「狂言」:もし万が一、私は声を大にしてそう言うぞ)。
これは平安時代以降の表現であり、奈良時代以前にはありません。この「かし」は後には使われなくなる表現ですが、「さぞかし」という表現に慣用的に残っています(「さ」は何かを示し、「ぞ」はやはり指示的に何かを強調する。「さぞかし」は、そのようにだぞ、声を強くして言い…(たしかに…)、のような意)。
「うたあり。そのうた『………』。いとをかしかし」(『土佐日記』:私は声を大きくして強調してそう言う、という思いが表現される。)。
「 男の、朝廷に仕うまつりはかばかしき 世のかためとなるべきも、まことの器ものとなるべきを取り出ださむには、かたかるべしかし」(『源氏物語』:まことの器(うつは)ものを見出し取り出すことは難しいと確かに言える)。
この「かし」には語源説らしきものはありません。この「か」は係助詞「か」の終助詞的用法で、といった品詞分類的なことが言われるだけです。この「か」が係助詞でと言われてもどうでもいい知識が増えてなんとなくわかったような気分になるだけですよね。品詞分類せよ、という受験問題が出て「係助詞」と書くと点がもらえるのかもしれませんが。
この「かし」は平安時代ころのものにはそうとう頻繁に現れます。深く意味など考えずほとんど慣用的に言われていたのかもしれません。たとえば、現代で言うなら、「そんなことありえないかし」とか、「お前はバカかかし」とか…。