◎「かけり(翔り)」(動詞)

「かはけ(『彼は…』気)」の動詞化。「かはけ(『彼は…』気)」は、『彼は…(あれは…)』と何かを見ていたり目指していたりすること。「かけり(翔り)」は心情や動態がそうなること、彼方の何かを目指し追っているような状態・動態になること。「あまかけり(天翔り)」は空を飛ぶ。能楽では狂乱や狂乱的苦悩を表す演技や音響効果を「かけり」と言います。この語は現代では「駆(か)ける(走る)」と混同されますが、「かけ(駆け)」と「かけり(翔り)」はまったく別語です。

「(鷹は)二上の 山飛び越えて 雲隠り かけり去にきと…」(万4011)。

「秋の夜の月毛の駒よわが恋ふる雲井にかけれ時の間も見む」(『源氏物語』:「かけり」の命令形)。

「『あら我が子恋しや』と云いてかけりの内に舞台下り」(『舞正語磨(ブシャウゴマ)』)。

 

◎「かご(籠)」・「かご(駕篭)」

・「かご(籠)」

「かきこ(舁き籠)」。「かく(舁く:担ぐ(背負う)」)籠(こ:かご)。「こ(籠)」は籠(かご)のこと。「懸(か)き籠(こ)」とする語源説もありますが、自己に懸(か)ける籠(こ)、よりも、自己が舁(か)く籠(こ)、の方が表現は自然でしょう。竹などで編んだ容器一般が「かご」と言われるようになりますが、古くはそれは単に「こ(籠)」と言いました。

「このころ流浪の行人のせなかに負たる籠をかこおひとなつけたり。かこ如何。かはくらの反。こは籠也。蔵籠也」(『名語記(ミャウゴキ)』:『名語記』は1275年最終成立の語源書)。

・「かご(駕篭)」

「かきこ(舁き籠)」。竹で籠(かご)のような物を作り、それに乗せて担ぎ人を移動した。「こ(籠)」は一音で籠(かご)を意味します。人が入る施設があり、これを長柄で吊るすように担ぎ移動する道具です。これがいつごろからあるかは明確ではありませんが、偶発的には、古代であっても、いろいろな人が考えそうな装置です。江戸時代には、特に商売として、広く普及しました。ただし、正式には、「かご(駕篭)」は、まさに人が浅い編み籠(かご)に入るような状態になるそれを言い、装飾なども施され、まるで担がれて移動する小さな個室のようなそれは「のりもの(乗り物)」と言いました。以前に「あ」の項で「あんぽんたん」と一緒に書いたと思いますが、江戸時代の庶民用駕籠に「あんぽつ」があります。これは「アンポウよつ(安保四つ)」。「アンポウ(安保))」は、安定して、安らかに、(客や乗り心地を)保(たも)つ、という表現。「よつ(四つ)」は「よつでかご(四つ手駕篭)」の語頭。四つ手駕篭は江戸時代の簡略な庶民用の駕籠です。「あんぽつ」はそれよりも作りが安定的。ただしそれでも高級というほどではありません。関西では「あんだ(あみいた・編み板)」と言いました。