◎「かげ(光)」

「ひかけ」。「ひ」の無音化。「ひか」は「ひかり(光り)」という動詞にあるそれであり、感覚進行を表現する「ひ」(この「ひ」は「日(ひ)」にもなっている)とその気づき確認の「か」による擬態にもなる表現。「け」は活用語尾にもなる動態確認の「け」。つまり「ひか」が起こっていることを表現している(連用形名詞化しかない(すくなくとも、残っていない)動詞の状態です)。

「渡る日のかげに競(きほ)ひて」(万4469)。

「すだきけむ(大勢いただろう)昔の人もなき宿にただかげするは秋の夜の月」(『後拾遺和歌集』)。

「ほしかげ(星影)」「つきかげ(月影)」は「影」と書かれますが「光」の意。「かつ見れどうとくもあるかな月かげのいたらぬさともあらじとおもへば」(『古今和歌集』)。

この「かげ(光)」は「かげ(陰・影)」と同音であり混乱も起こります。

 

◎「かげ(陰・影)」

「かくけ(懸く気)」。「かく(懸く)」は「かき(懸き)」の連体形であり、「かくけ(懸く気)→かげ」は、何かがかかっている気(け)。物がかかっている「気(け)」があればそれは「ものかげ(物陰)」。太陽光による明視感に何かがかかっている印象があれば「かげ(陰・影)」。太陽光遮断部(陰:遮断を受け光量が弱まっている空間部分)やその現れたる地上の、反射光量の少ない部分(影:それが明瞭な形となったりもする)も「かげ」。人の影響作用、特に保護的影響・恵み的影響作用も「かげ」(→「おかげさまで」)。その「かげ(影)」は正体を映し想起させるが正体ではない想的なものとなり、たとえば水に映った何かの映像も「かげ(影)」という。想的な、記憶再起映像(「おもかげ(面影)」)、具体性の乏しい映像(「ひとかげ(人影)」)なども「かげ(影)」といいます。

「橘(たちばな)の影(かげ:原文は、蔭)ふむみちの…」(万125)。

「父(てて)はただ我をおとなにしすゑて、我は世にも出で交(まじ)らはず、かげに隠れたらむやうにてゐたるを…」(『更級日記』)。

「…君がみかげにます影(かげ)はなし」(『古今集』:恵み的影響作用)。

「池水にかげさへ見えて咲きにほふ馬酔木(あしび)の花を…」(万4512:正体を映し想起させるが正体ではない想的なもの)。