「かひきき(支ひ効き)」。「ひ」の無音化。「きき(効き)」は効果のあること。「かひ(支ひ)」は環境にある何かに対し交感を生じさせる努力を進行させることですが、それによりその何かは維持されます(→「家のかたぶけるにかふ」(『名語記』:家が傾いてきたので、倒れぬよう、これを木材などで支えた)。「かひきき(支ひ効き)」によって維持されるのは二つに解体する危険のある二片であり、それが解体せぬように、正しくは、望まぬ時に解体せぬように、維持する効果のあるもの、それが「かひきき(支ひ効き)→かぎ」。望まぬときに二つに解体する危険のある二片とは、人が出入りできる空間となりうるそれを閉ざしている二枚の扉であったり、壁と扉であったり、容器の容器と蓋であったりする。それらが望まぬときに開かぬようにするものが「かぎ」。本来はその装置全体が「かぎ」ですが、やがて、生活において身近にあるからでしょう、それの装置の一部たる、それを開閉する道具部品が独立して「かぎ」と言われるようにもなります。その意味での「かぎ」以外の他の装置部分を独立して表現する場合は、通常、漢語風に「ヂャウ(錠)」や「ヂャウまへ(錠前)」と言います。ただし、漢語の「錠(ヂャウ)」はある種の調理器具のような祭器のような物、さらには(とくに金属の)塊(→錠剤)、の名であり、そこに「かぎ」の意味はない。「かぎ」の意味で「錠」を用いるのは、その字を、金具で固定する、のような意で解した、いわば解釈和製漢語。

「かぎ」は漢字では「鍵・鎰・鏁・鑰・𨨟・鑰匙・鈎匙・鏁子・鉤・鈎」といった書き方をします。

上記の、独立した、開閉する道具部分の、現実に現れている具体的形状から、「かぎがた(鉤形)」は(とくに直角に)曲がった形を意味する(現実の鍵には、単純な直角ではなく、中華どんぶりの縁に描かれる四角い渦巻模様のようなものもあります。飛鳥時代のものが発掘されている「海老(えび)錠」は棒状のもので、ロックになっている内部のスプリング板を押すだけの単純なものですが、これは鍵がなくても開くので、象徴的なものではないかと言われています)。

 

「隣の君は……乞はなくに鎰(かぎ)さへ奉(まつ)る」(万1738:評判の、美人で魅力的な女性がおり、隣の男は、妻を離れ、くれとも言われないのに自分の家の(倉のかもしれませんが)鍵をその女性に渡したそうです)。

「(蘇我蝦夷・入鹿が)門(かど)毎(ごと)に、水盛舟(みづいるるふね)一(ひとつ)、木鉤(きかぎ)數十(とをあまり)置(お)きて、火(ひ)の災(わざはひ)に備(そな)ふ。恆(つね)に力人(ちからびと)をして兵(つはもの:武器)を持(も)ちて家(いへ)を守(まも)らしむ」(『日本書紀』:この「木鉤(きかぎ)」は先の曲がった棒状のものを意味する。何かをひっかけて倒し、火災の際に延焼を防いだりするものでしょうけれど、武器にもなる)。

(参考)

「其処のところには心張り棒がかってあった」(『疑惑』近松秋江:心張棒を「かふ」ことにより何かが維持されている)。

「鍵のかかるところに鍵をかって」(『星座』有島武郎:「かぎ」を「かひ」という言い方もなされている)。