◎「かき(欠き)」(動詞)
「かけ(欠け)」(下記)の他動表現(下記※)。なくてはならない部分をなくすこと。他動とはいっても、「かけ(欠け)」の動態は自然界の自然現象のようなものであり、「かき(欠き)」はそれを人間その他の主体の主導的な意思動態的なものとして表現しています。
「四十九日のこと、たれもかくことなくて、家にてぞする」(『蜻蛉日記』)。
「朝ごとの御念誦、かかせ給はず」(『古本説話集』)。
「注意をかき」。「言ふにことかいて…(事を欠いて:事に不足して)」。「毎日かかさず日記を書く」。
※ 活用語尾E音・自動表現、I音・他動表現、という例としては他に、「さけ(裂け)自・さき(裂き)他」、「とけ(溶け)自・溶き(溶き)他」、「はれ(晴れ)自・はり(墾り)他」その他があります。
◎「かけ(欠け)」(動詞)
「きはきえ(際消え)」。月の際(きは)が消えることが起源の動詞。月の月たる部分が(全部ではなく、部分が)消えること。無くてはならない部分が消えること、なくなること。「刃がかけ」なら、刃の刃たる部分が
「照る月も満ち欠けしけり(照月毛 盈𣅳之家里)」(万4160)。
「日月も蝕(カケ)て光無けむ」(『金光明最勝王経』平安初期点)。
「諸根具足して(諸根が完全に備わって)欠(カクル)ことなく」(『地蔵十輪経』:「諸根」は活動発生源。眼耳鼻舌身意が六根)。
「口のかけた土瓶」(「人情本」)。
動詞「かき」は「懸き・掛き・舁き」(1月25日)、「書き、その他」(1月26日)、「掻き(交き)」(1月27日)、「欠き」(1月28日)ということです。最後の一つだけがアクセントが違います。他はすべて全く同音です。すべて語幹の「か」はK音の交感とA音の情況感によるものなのですが、「かき(懸き・掛き・舁き)」は客観的対象相互の交感を表現し、「かき(書き、その他)」は気づきたる内的交感、それによる、何かを表すことを表現し、「かき(掻き(交き))」は情況全的に交感を働きかける動態を表現し、同音でも「か」の作用の仕方が異なり、「かき(欠き)」は「かけ(欠け)」の他動表現ということです。アクセントは「懸き・掛き・舁き」「書き、その他」「掻き(交き)」は語頭の「か」にアクセントが入りますが、「欠き」は入りません。