「かがふり(被り・冠り)」(動詞)
「かきうはふり(掛き上触り)」。「かきうは」が「かくわ」のような音を経て「かが」になっている。古くは四段活用の「かき(掛き)」「ふり(触り)」があり、「Aがかき・Aをかき」「Aがふり・Aをふり」どちらの表現もある(これらは後には「かけ(掛け)」「ふれ(触れ)」という下二段活用が一般的になります)。
「かきうはふり(掛き上触り)→かがふり」は、掛(か)けて(交感を生じさせて)上に触(ふ)れる状態になること。この「かがふり」が「かうぶり・かうむり(被り)」「かぶり(被り)」「かうぶり・かんむり(冠)」といった音(オン)や意味になる。「かがふり」とは表記されていますが、現実の音は「かぐぁふり・かぐぁぶり」のようなものであり、これがG音が退化し「かうぶり・かうむり」のような音になっていっているということでしょう。掛(か)け、上に触(ふ)れ、たるこの「かがふり(被り・冠り)」は「かぶり(被り)」のような意味になり(下記(1))、それが、下記(2)のような表現を経つつ、「かき(掛き)」は「かかり(掛かり)」のように用いられ、全体は「うけ(受け)」のような意になり、「損害をかうむる(被る)」といった言われ方をするようになる。「御免かうむる(被る)」は、誰も御免(免除・許し)を与えたわけではないが、御免を受ける。地位の象徴などとしてそうした「ががふり」の状態になるものが「ががふり→かうむり→かんむり(冠)」。「帽子をかぶり」などの「かぶり(被り)」も「かうぶり→かぶり」。
(1)「麻ぶすま引きかがふり(可賀布利)」(万892:「ふすま」は、ようするに、後世の布団)。
(2)「かしこきや命(みこと)かがふり(加我布理)」(万4321)。「神仏の恵みかうぶれるに似たり」(『土佐日記』)。
「救護の篇を以て章首に冠(カカフラ)しめたり」(『金剛般若経集験記』平安初期点:救護の篇を章首(章の始め)にかぶらせた(救護の篇を冠(かんむり)にした)、のような言い方)。
「常に人の所疑を為(カカフル)」(『大智度論』平安初期点:疑いをかぶる・こうむる)。
「次(つぎ)に投(な)げ棄(う)つる御冠(みかがふり)に成(な)れる神(かみ)の名(な)は…」(『古事記』)。
「冠………加宇布利…」(『和名類聚鈔』)。
「冠 カンムリ」(『温故知新書』:『温故知新書』は1400年代後半の簡易国語辞書というようなもの。悉曇学の心得のある人によって書かれ、語が五十音順にならんでおり、見出し字は梵字で書かれる)。「」