◎「かかはゆし」(形ク)

「ひかひかはえうし(光光映え憂し)」。「ひ」の音(オン)は退行化した。「ひかひか」は光り輝くことを表す擬態。「ひかひかはえうし(光光映え憂し)→かかはゆし」は、光り輝くその反映の光度があまりに強く憂鬱さを覚えるほどであることを表現する。現実の、物的な意味での光に関しても言い、自分が置かれている情況、その人間的社会的情況を光に比喩しても言う。

「月の山の端よりもれ出る月影にかがはゆきまで晴れわたり」(「洒落本」)。

「玉山ノ 人ヲ照スニ 近ツクヤウナソ コチカ(が)テラサレテ(照らされて)カゝハイソ」(『蒙求抄』:これは「爽」のような「𤕤」のような、見たこともない字の意味説明として書かれています。「爽」の、下の「メ」の上下に横棒が入っているような字です。どうも「爽」や「𤕤」と同字らしいです。それらは『廣韻』や『説文』に「明也」と書かれています。「玉山」はどういう意味でしょうか。容姿が美しいこと、雪の積もった山、玉を産する山の名、といった意味があります。原文ではこの一文の前に「楷ヲミレハ(見れば)」とあるのですが、楷書たる自分が書いたその字を見ると、「メ」が山のようであり、それが迫って来るようだ、ということかもしれません。ちなみに『蒙求抄』は室町時代の清原宣賢による講説の聞き書きであり、江戸時代初期に編集され出版された)。

「僧欺き咲(わら)ひて、歌の内に有上戸贔屓(上戸贔屓有り)、閉口せよ。件(くだん)の者、怕日(カガハユ)き場に指出たる事越度(ヲツド)なるかなと赤面して…」(『醒睡笑』)。

「羞明(まばゆし)といふ事を…美濃尾張辺にて、かかはゆひと云」(『物類称呼諸国方言』)。

 

◎「かかふ(襤褸衣)」

「きはかふ(着努果斑)」。「はか(努果)」は努力の成果。「ふ(班)」は「ふいり(班入り)」などのそれであり、まだらなもの、不規則不定形な独立的色彩や形象を意味する。「きはかふ(着努果斑)」は、着る努力の成果たる斑(まだら)なもの、の意。ひどく廃れ傷んだ着物、ぼろ、それも極度のぼろ着、を意味する。

「かかふ(可可布)のみ肩に打ちかけ」(万892)。

「〓……残帛也世不礼加ゝ不」(『新撰字鏡』:「〓」は「巾」偏に「祭」。これは天治本『新撰字鏡』にあるものですが、「世」は「也(や)」の誤字か? どう見ても「世」にしか見えませんが。つまり「世不礼加ゝ不」は「やぶれかかふ」)。