◎「かがし(案山子)」
「かかはし(鹿交はし)」。「しか(鹿)」は単に「か」とも言いました。鹿(しか)を避けるもの、の意。鹿をやりすごすわけです。そこを避け他へ行かせる。これが害獣一般の対策具や施設を言うようになった。農産物の獣害を防ぐわけです。具体的には獣が嫌がる悪臭のするものを田の畦に立てたり、田に人に似せた人形を立てたりします。「案山子」という表記はそれを意味する漢語をそのまま書いたもの(「案山」は平らな台状の地のようなところであり、これが山田を意味する。もっとも、現代の中国語では「稲草人」というようです)。「鹿驚」とも書く。関西より北越辺では「かがし」と言い、関東では「かかし」と清音で言うと『物類称呼諸国方言』(1700年代後半)にある。「かがせ」とも言いますが、これは「かかはせ(鹿交はせ)」ということでしょう。「かひ(交ひ)」の他動表現には「かはせ」もあります。同じものを意味する方言に「そめ」「しめ」がありますが、これは「しおめ(為臆め)」「しいめ(為忌め)」でしょう。語頭の「し(為)」は意思的・故意的な動態であることを表現する。「しおめ(為臆め)」は、(害獣が) 臆(お)めることをするもの(つまり、害獣を臆(お)めさせるもの)、の意。「いめ(忌め)」は、「いみ(忌み)」の他動表現。(害獣を)忌ませるもの、の意味。
この語の語源説は悪臭のするものを嗅(か)がせるので「嗅(か)がし」とするのがほぼ定説の状態になっています。
これに関係した語で「そほづ」や「くえびこ」がありますが、それはそれらの項。
◎「かがち(鬼灯)」
「かきがち(柿勝ち)」。「き」は無音化した。「がち(勝ち)」は「~しがち」と言ったりする、何かの傾向が強いことを表現するそれ。「~がち」の「~」の部分には名詞や動詞連用形が入ります。「かきがち(柿勝ち)→かがち」は、柿の傾向が強いもの、柿を思わせるもの、の意。別名「ほほづき」。植物の一種、特にその実、の名。
「『彼(そ)の目(め)は赤加賀智(あかかがち)の如(ごと)くして、身(み)一(ひと)つに八頭八尾(やかしらやを) 有(あ)り………』とまをしき 此(ここ)に赤加賀知と謂(い)へるは今(いま)の酸醤なり」(『古事記』)。
「虵 クチナハ……故ニ大蛇ヲモ山カガチト云。カガチトハホウヅキヲ云」(『大和本草』)。
「酸醬 ホホツキ………又名ヲカガチト云」(『大和本草』)。