◎「かかげ」(動詞)

「かきあげ(掻き上げ)」。何かを掻(か)いて(交感を生じさせて)上げること。髪をときあげたり、袴(はかま)の裾(すそ)や幕をたくしあげたりする。

「少女(をとめ)らが織る機(はた)の上(へ)を真櫛(まくし)もちかかげ栲(たく)島の……」(万1233:「かかげ」までは「栲(たく)島」の「たく」(髪をまとめること)を引き出す助走のような表現)。

「裳(も)を褰(かか)げ」(『日本書紀』:着物の裾をたくしあげた)。

「香鑢峯の雪は簾(すだれ)を撥(カカケテ)看(ミル)」(『和漢朗詠集』)。

「褰霧見光(霧を褰(かか)げ光を見る)」(『秘蔵宝鑰(ヒゾウハウヤク)』(空海が書いたものです):「褰(ケン)」は)『説文』に「袴也」と書かれる文字ですが、裾をつまみ上げることから、たくしあげる、という意味がある)。

 

◎「かかげ(掲げ)」(動詞)

「あかあかあげ(明か明か上げ)」。「あ」の消音化。火(松明(たいまつ)など)をその手にもつ位置をあげ、対象を明るくしよく見えるようにしたり、高く上げて遠方まで照らしよく見えるようにしたりすること。これが、明かりの光量を増したり、何かを、それで遠方を照すような状態(相対的に、遠方からそれが良く見える状態)にすることを意味するようになった。

「御燈明(みあかし)の火、けざやかにかかげさせて」(『源氏物語』)。

「月は東方の乱山にかかげて、衣裳に湖水の秋をふくむ」(『続猿蓑』:これは、Aをかかげ、ではなく、Aがかかげ、という自動的な表現になっている)。

「三百余歳の法燈を挑(かかぐ)る人もなく…」(『平家物語』:仏法が世を照らす燈火に比喩されているわけです)。

「国旗をかかげ」。

 

※ 「か(助詞)」の項(1月6日)の「かかりむすび」の付録

この「かかりむすび」という文法用語は江戸時代に富樫広蔭(とがしひろかげ)という人が言い出したようです。この富樫広蔭(とがしひろかげ)という人は言語の「音義説」でも知られる人です。「音義説」とは、言語のそれぞれの音にはそれぞれの意味があるとするもの。これはまぁ、誰でもなんとでも言えますから、中にはひどいものもあります。たとえば「『ば』は汚いものをあらわす。例、ばばあ(婆) 」とか。これは、言語の意味とは人が口から発する音、それにともなう音運動、その脳ニューロン反応と、光や接触その他の外的知覚、それにともなう反応・脳ニューロン反応の相互関係、その記憶の問題だということ、そして、人はその相互関係が全く無秩序化し無意味化した言語を言いだし書きだし入力しだすこともあるということが気づかれていないんですよね。とくに、「意味」が客観化され対象化するとそういう危険が高くなる(つまり、音義説を唱えようと、音と意味との関係は本質的に非必然的なものとする説を唱えようと、その危険はある。ただ、音と意味との関係は非必然的とする説に関し一言すれば、それが偶発的だったとしても、時間的空間的に人と人相互の普遍性がなければそれは意味にはならず、なぜ口音とその記憶に偶発的に普遍性が生じる場合と生じない場合があるのかは偶発的と言われただけではわかりませんね)。