◎「おぼとり」(動詞)

「おぼもとり(朧悖り)」。「おぼ(朧)」は「おほ(朧)」の項。「もとり(悖り)」はその項(本来あるべき姿・あり方が壊れること)。「おぼもとり(朧悖り)→おぼとり」は、ぼんやりと、正体が明瞭に把握できない印象で、あるべき姿から外れること。蔓状の植物や毛などがもつれ乱れた状態になること。「〓莢(サウケフ)に延(は)ひおほとれる屎葛(くそかづら)絶ゆることなく宮仕(みやづかへ)せむ」(万3855:「〓」は草冠の下に「日」、その下に「匕」の字。「〓莢(サウケフ)」はサイカチ(別名カハラフジノキ)のことらしい。これは酒席か何かの余興の歌でしょう)。

 

◎「おぼとれ」(動詞)

「おぼとり」(上記)の語尾がE音化し客観的に対象化した主体の自動表現になっています。

「(薄(すすき)は)冬の末まで、かしらのいとしろくおほとれたるもしらず、むかし思ひ出顔に、風になびきて」(『枕草子』)。

「ほどもなう明けぬ心地するに、鶏などは鳴かで、大路近き所に(大路に近いところなので)、おぼとれたる声して、いかにとか聞きも知らぬ名のりをして、うち群れて行くなどぞ聞こゆる」(『源氏物語』:これは、もうすぐ夜明け、という頃の大路の描写ですが、聞きも知らぬ名のりをする(聞いたこともないようなものの名を言う)おぼとれた声、とは寝起きたばかりの物売りの声でしょうか)。

 

整えられていない無秩序化した髪、そんな状態の頭部、を意味する「おぼとれがしら(おぼとれ頭)」「おぼとれがみ(おぼとれ髪)」という言葉もあります。