◎「おの(己・自)」の語源
自己人称として「あ」があり、それにそれを情況的に認了する「な」がついて「あな(己)」があり、それがU音化し動態感が生じ「うぬ(己)」があり、O音化し目標感化・客観的な存在感化が生じ「おの(己)」があります。これに「これ」「それ」などの影響によりR音の情況にE音の外渉感・働きかけの語感が生じた「れ」がつくと「おのれ(己)」になります。「うぬ」や「おの」が二人称として使われることもあります。
「…おのが負(お)へるおのが名(な)負(お)ひ…」(万4098)。
※ 「あ(吾)」の項再記
一人称の「あ」である。「あ」の音(オン)(A音)の全的な完成感が言語主体を表現した。「あり(有り・在り)」「あれ(生れ)」にもある、全的な完成感が表現される「あ」が自主的(即自的)・主体的に表現されている。言語性保障としてA音の全体感と全的完成感が一人称として(言語主体の表現として)現れた。言語性保障とは、言語の言語性を喪失させないということである。語音の生命体生理によって言語の真性が保障されるということである。
「な(汝)こそはを(男)にいませば……あ(吾)はもよめ(女)にしあれば」(『古事記』歌謡6)。
◎「おのがじし」の語源
「おのがしりし(己が領り為)」。「が」は所属を表現する助詞(主格を表現し主語を表現するわけではありません。「母が手(母の手)」などの「が」です)。「おのがじり」のように連濁しつつ「り」のR音は退化した。「しり(領り)」は統治を意味する名詞。最後の「し」は動詞。自分の統治で、自分で自分を治める状態で、の意。各々(おのおの)、めいめい、それぞれ、や、自分の責(せい)で、といった意味になります。
「池のわたりの梢(こずゑ)ども、遣り水のほとりの草むら、おのがじし色づきわたりつつ」(『紫式部日記』)。
「おのがじし人死にすらし妹(いも)に恋ひ日に異(け)に羸(や)せぬ人に知らえず」(万2928:人は自分のせいで、自分が自分に与える影響で、死んでしまうようだ。あなたに恋ひ日に日に痩(や)せていく…)。