「おほとののとの(大殿殿)」。「との(殿)」という語が二つ重なっているわけですが、これは、元来建物を意味した「との」という言葉がその建物に住む一族、その一族に属する個人、の尊称としても用いられるようになっていったその過渡的時代の産物たる表現です。最初の「との」は建物、次の「との」は人への尊称。大きな「との(殿):建造物」に住むような、たとえば大臣などの、社会的に大きな影響力や権威のある人物や、その家でそこに影響力をもちそこを差配しているような女、を意味します。「おほいどの(大い殿)」(「い」は「き」の音便)の「どの」などは建物の意にもそこに住む人々(一族)の意にもとれる場合がある。

 

「いささか、(琴を)かき鳴らして、大曲一つをひくに、おとどの上の瓦くだけて、花のごとく散る」(『宇津保物語』:これは建造物を意味する)。

「そのころ、太政(おほき)おとど亡(う)せ給ひぬ」(『源氏物語』:これは権威ある者への尊称)。

「なほ、南のおとどの御心用ひこそ、さまざまにありがたう」(『源氏物語』:これは女主人、のような意。家内の権威者、ということでしょう)。