「おくまけ」・「おくまへ」の語源

 

◎「おくまけ」

「おくまけ(奥設け)」。「まけ(設け)」はM音の意思・推想表現性により意思動態的思念(推量・推想や期待)化が生じている動態になることを意味します→「まけ(設け)」の項(アクセントは変わりますが、「まけ」という音(オン)の動詞には、設け・任け・負け、があります)。「おくまけ(奥設け)」、すなわち、奥(おく)に意思動態的思念動態になる、とは、ものごとの事情や将来の展望など、深く、や、先のことまで、思いめぐらすこと。

「おくまけて吾(わ)が思ふ妹(いも)が言(こと)の茂(しげ)けく」(万2439・柿本人麻呂歌集。深く大切に思っている女性に関し心配になるような噂が流れたりしているらしい)。この「万2439」の歌は「おくまけて」が「おくまへて」になり他は全く同じ歌が「万2728」にあります。

 

◎「おくまへ」

「おくもあへ(奥も敢へ)」。「あへ(敢へ)」は何かの全的完成感・全的完全性を維持することを意味する(→「敢(あ)へてそうする」)。「も」は助詞ですが、「おくも(奥も)」は、けして表面的なものではなく奥も、ということ。「おくもあへ(奥も敢へ)→おくまへ」は、ものごとの奥まで完全に維持して、ということであり、全的であることを表現し、「おくまへて」は、全的に、という意味になります。これは表現者に視点を置いて言えば(表現者がそうであれば)、心の底から、というような意味にもなります。「おくまへて吾(わ)が思(も)ふ君は千歳にもがも」(万1024:深く心のそこから。文末の「もがも」は希求・願望)。

 

これらは「おくまけて」「おくまへて」という言い方がなされ、「おくまけ」「おくまへ」が独立した動詞と言いうるものではありません。たとえば、おくまけず、や、おくまくるとき、といった表現はありません。