「おへうけいゐ(「お」へ浮けい居)」。「おへう」が「お」に」、「けいゐ」が「くゐ」のような音を経つつ「き」になっている。「「お」へ」は、「お」はこの音(オン)でそこへ向かって行く方向感のある対象感を表現し(→「おき(置き・措き)」の項(9月2日:昨日))、「へ」は目的への進行感・方向感を表現する助詞。「うけ(浮け)」は「うき(浮き)」の他動表現。「うき(浮き)」は発生感を表現する(→「うき(浮き)」の項(4月20日))。つまり、意味は、現(あらは)す、のような意。「い~」はそのI音の進行感により動態の永続感を表現します。「~」で表現されるその動態がそのまま続きます。「おへうけいゐ(「お」へ浮け居)」は、「お」の状態(遊離感のある独律した状態)へ浮かされ(現され)てあること。この他動感は、自らの意思で、故意に、そうしたのではなく、意思なく、いわば自然に、そうなったことを表現しています。典型的には眠りからの目覚めがそうです。人は眠りの中で目覚めるべきか否か思考し、ときには迷い、判断し、目覚めることを決め目覚めているわけではありません。「おき(起き)」によって表現される最も基本的なことは眠りからの離脱です。すなわち、覚醒する(覚醒している)、目を開く、体を起こす、立ち上がる―これら一連の動作は眠りからの離脱としてある限りすべて「おき(起き)」です。事象の独律存在化も表現します。「火がおき」、「おきび(熾き火)」、「腹痛がおき」、「事件がおき」。

この動詞は上二段活用です。

 

「うつくしと思ふ我妹(わぎも)を夢に見て起きて探るに無きがさぶしさ」(万2914)。

「ともし火をかかげつくしておきおはします」(『源氏物語』:起きている(寝ない))。

「…川沿(かはそ)ひ柳(やなぎ)水行(ゆ)けば靡(なび)き起(お)き立ち…」(『日本書紀』歌謡83)。