「えそへ(得添え)」。「え(得)」はものやことが帰属していること、帰属していると認容し得ることを表現しますが、「えそへ(得添え)→えせ」は、その「え(得)」が「そへ(添へ)」であること、帰属していると認容しえず、特異的に認められるもの・こととして添加されたもの・ことであること。この表現が、それが、それのようであるがそれではないこと、それのようであるがそれは添加であり実態として帰属していないこと(そのようではあるが実態のないものやこと)(A:にせもの)、や、それではあるが帰属が認容される実態がなくそれではないこと、それではあるがそれは添加のようでありそれとして認められないこと(そうではあるが実態のないものやこと)(B:それとして評価できない粗悪品)、を意味する。「えせもの」という言葉などは、にせもの、という意味でも、粗悪品、という意味でも言う。
「ゑせ者にこそ候めれ。其の故(ゆゑ)は、実(まこと)の鬼神ならば己が(私の)名こそ呼ぶべきに、そこの(あなたの)御名をこそなほ呼び…」(『今昔物語』(A・偽物))。
「右衛門の尉(ジョウ・下記※)なりける者のえせなる男親を持たりて…」(『枕草子』:偽物の親というわけではなく、(様々な意味で)劣り、『私の親です』と人に言えないような親(B・粗悪品))。
「えせざむらい(似非侍)」。「えせうし(似非牛):あれを「うし」と言っていいのかと思うような、みすぼらしいひどい状態の牛」。「えせつよがり」。「えせくすし(似非薬師):藪医者」。「えせざひはひ(似非幸):実態のない幸い」。その他。
※ 「尉」の音(オン)は「イ」ですが、その昔、律令の三等官を「丞(ジョウ):助け、補助、の意」と呼び、様々な役職のそれにあたる位を様々な字で書きつつそう呼んでいます。