驚きや、意外感(疑惑感)などを表す発声。

「えも言われぬ香り」(陶酔し『え』の声も出ないほどの香り)。「え(衣)も名付けたり」(万4078:よく名付けたものだ)。

「旅寝(たびね)え(得)せめや長きこの夜を」(万3152:(旅寝を)え?(疑惑を感じ結果に自信を持てない発声)するのだろうか→とてもできないぞ:「せ」は動詞「す(為)」の変化)。

「えこそ渡らね」(『古今集』え!という全く意外なことに遭遇した驚きの発声があるような状態でだ、(川を)渡らないのは(こそ―已然形の係り結び)→人々は簡単に渡れると思っているかもしれないが、それほどこの川を渡るのはむずかしい)。

「え苦しゑ 水葱(なぎ)のもと 芹(せり)のもと 吾(あれ)は苦しゑ」(『日本書紀』歌謡126:最初の「え」は驚きや意外感を表現するそれであり、思いを強意する情感が表現されている。なんと苦しい、ということ。末尾の「ゑ」に関してはその項。この歌は天智天皇が崩御した天智天皇十年十一月の童謡(わざうた)として記録されているものであり、その意味にはいろいろな解釈があります)。

この「え」は否定の強意にもなります。「え避(さ)らぬ」(けして避けられない)。「え避(さ)らず」(避けられず)。「えさらず思ふべき産屋のこと」(『蜻蛉日記』:思うことを避けるなどということはできない状態で思わねばならない産屋のこと、考えないわけにはいかない産屋のこと)。

『古事記』の「島生み」の部分にあるイザナキ・イザナミによる『阿那邇夜志愛袁登古袁(あなにやしえをとこを)』『阿那邇夜志愛袁登賣袁(あなにやしえをとめを)』にある「え(愛)」もこの「え」であり、「え」と呆れ驚くような、信じられないような、奇跡のように美しくすばらしい男・女、を意味します。