◎「え(兄・姉)」(ye)

「うはえ(上枝)」。これが「え」の一音になった。「え(兄)」は同腹の同性年長者を意味します。男も女も問いません。子供を幹から生えた枝と考え、上の枝の意。なら「したえ(下枝)→しで」があるかというと、それはありません(下の枝を「しづえ」と呼ぶ表現はあります)。それが無いのは、同腹者における、上への特別配慮はあっても下へのそれはなかったから。下の者は「おと」と言います。この「え」は「えと(干支)」の「え」でもあります。「兄比賣 (えひめ) 弟比賣 (おとひめ)この二(ふた)はしらの女王(ひめみこ)」(『古事記』)。「かつがつもいや前(さき)立(だ)てるえ(延)をし設(ま)かむ」(『古事記』歌謡17:この歌は、あまり気乗りはしないがあの年長の娘にしよう、のような解釈がなされていますが、そういう意味ではありません、ためらいがちながらも誰よりも前に出たあの年長の娘を、の意)。

 

◎「え(江)」(ye)

「ふえ(増え)」の一音化。地形的に、海が陸へ入り込んだような印象になっている部分を言いますが、視点を海におき、海が(枝のように)増えている印象の地形部分の海。「入り江」、「江の島」。

 

◎「え(枝)」(ye)

「ふえ(増え)」の一音化。植物(とりわけ樹木)の中心存在(幹)から増えた印象のもの。

 

◎「え(柄)」(ye)

「え(枝)」の転用。取手(とって:とりて)とも言う。柄杓(ひさく・ひしゃく)についている(その部分を握る)棒状のものなどです。

 

◎「え(胞)」(ye)の語源

「いえ(癒え)」。(母体が)癒(い)える(もとに戻る)もの、の意。出産に続き体外へ出される胎児を包んでいた膜や胎盤などの総称。これが出されることを「あとザン(後産)」とも言います。「え(胞)」は「えな(胞)」とも言いますが、それらは後産で体外へ出るものの総称です。

 

◎「え(榎)」(e)

「えのき(えの木)」を語頭一音で表現したもの。「えのき」は「いへのき(家の木)」。材が堅いので古く家材に用いたのでしょう。

 

平仮名の「え」には、原意としては、「e」と「ye」があります。両方の発音が曖昧になっていった時期に平仮名も習慣的に一般化していったということです。「え」は「衣」の略体でしょうから、元来は「e」の音(オン)です。『いろは歌』(いろはにほへと…:900年代にできたかと言われている)以前にあった、そしてある音(オン)の仮名を一度づつ使う、『あめつちの詞(ことば)』(下記※)には「え」が二度使われ、これは「e」と「ye」を表しているものと思われます(「えのえ」という表現)。片仮名の「エ」は「江」の一部でしょうから、元来なら「ye」の音(オン)です。

『あめつちの詞(ことば)』の後半部分(「ひといぬうへすゑ ゆわさるおふせよ えのえをなれゐて」)は解釈が定まっていませんが、「ひと(人)」「いぬ(去ぬ)」(いなくなってしまう)、「うへ(上)」「すゑ(末)」、「ゆわ(湯輪)」(湯の沸騰の際の泡)「さる(去る)」(どこかへいってしまう)、「おふ(逐ふ)」(駆逐する)「せよ」(命令)、「えのえを(『え』の『え』を)」(後※)、「なれゐて(馴れ居て)」ということでしょう。※「えのえを(『え』の『え』を)」とは、「e」「ye」を表す「え」の「え」を、ということであり、それを「おへ(逐へ)」(駆逐せよ)とは、「え」から「e」を、「え」から「ye」を、駆逐しどちらなのか弁(わきま)えろ、ということ。それに馴れて、と言っています。