「うまくほり(倦まく欲り)」。「うまく(倦まく)」は動詞「うみ(倦み)」のいわゆるク語法。ク語法に関しては「おそらく(恐らく)」の項。「ほり(欲り)」は何かが願いとなるような状態になること→「ほり(欲り)」(これは「ほれ(惚れ)」の自動表現にあたる語です。厳密に言うと、「ほれ(惚れ)」が「ほり(欲り)」の他動表現ですが)。ク語法は何かの動態が果てた状態にあることを表現し(→「おそらく(恐らく)」の項)、「うまくほり(倦まく欲り)」は、倦み果てた状態で何かが願いとなりそれに心を惹かれていること、(なぜこんなに心がひかれるのだろうと、自分自身に)倦み疲れうんざりするような思いになりながらもなぜかなおそれに心が惹かれてしまっていることを表現します。これが「あや(文):技巧が凝らされた美しい模様」にかかり、同音の感嘆表明たる「あや」にかかります。

「……うまこりあやに羨(とも)しき高照(たかて)らす日の皇子(みこ)」(万162:表現しえない不思議さで心がひかれる、のような意味になります。この歌は生まれた事情が特殊です。天武天皇崩御に関連した「御斎会」ということが行われた夜、持統天皇が夢の中で聞いた歌らしい)。

 

この語の語源は「うまきおり(美き織り)」(感心・感嘆するような織り)と言われることが一般のようです。だから「あや(文)」(複雑な美しい模様)にかかるということです。しかし、その場合、「こ」の表記は、いわゆる上代特殊仮名遣いにおける、甲類表記になると思われるのですが、「うまこり」は「味凝」(万162)や「味凍」(万913)と書かれるように、乙類表記です。