◎「うぶ(産)」
「うみへゐ(産みへ居)」の音変化。「うめゐ→うむ」のような音(オン)を経「うぶ」になっています。意味は、出産へ向けて居ること、出産へ向けた状態にあること。これによる「うぶす」(「うぶすな(産土)」の項(下記)参照)や「うぶや(産屋)」(出産のために特に作られる屋(や:独立した家のようなものなのですが、煮炊き寝起きして居住するようなものではありません。ただ出産のための部屋になっているだけです。非常に古代においてはただ草(かや)で覆っただけのようなものでしょう)といった語がある。それらの語の影響により、「うぶ」が、それが出産に関係していることを表現する語となっています。「うぶごゑ(産声)」、「うぶゆ(産湯)」、「うぶぎ(産着)」。社会経験や人生経験が無いような状態を「うぶ」と表現するのはこれの俗語的転用です。
◎「うぶすな(産土)」
「うぶすには(産巣庭)」。「うぶ」は「うみへゐ(産みへ居)」の音変化→「うぶ(産)」の項(上記)参照。「す」は「巣」。つまり「うぶす」は出産へ向けて居る「す(巣)」。この「す(巣)」という言葉は元来は人の居住施設を意味しました→「す(巣)」の項(これは、ほとんど原始時代と言ってよいような、古い時代の表現だと思います)。鳥その他の動物のそれを表現するのはその転用です。つまり「うぶす(産巣)」は後の「うぶや(産屋)」。語尾の「な」は「には(庭)」。「には(庭)」の原意は、儀式その他、何かの目的のために特別に開かれその平盤さを維持された土地の小部分域です。「うぶす」においては産みのために、人の誕生のために、特別にその小部分域が開かれ特別な域として維持された。それが「うぶすには(産巣庭)→うぶすな」です。
「葛城(かづらき)の県(あがた)はもと臣(やつがれ)が本居(うぶすな)なり」(『日本書紀』)。