◎「うつほ(空)」の語源

「おひつほ(生ひ壺)」。自然に生じた壺(つぼ)のような空洞、の意。木に生じた空洞など。容器などが空(から)であることも言い、上着だけを着、下着を着ていないことも言います。「つぼ(壺)」は古くは「つほ」と清音だったと思われます。「木のうつほのありけるにはひ入りて」(『宇治拾遺物語』)。「短き衣うつほにほうかぶって帯もせず」(『平家物語』)。

 

◎「うつぼ(靫・鱓)」の語源

「おひつぼを(負ひ壺尾)」。身に負う壺のように空洞な長いもの、の意。背に負い矢を入れておく道具。腰に装着し背に負うというような装備になります。これは平安時代後期から現れました。魚名の「うつぼ(鱓)」はこれに形状が似ていることによる名。

矢を負う道具にはほかに「ゆき(靫)」「やなぐひ(胡簶)」「えびら(箙)」と言われるものがありますが、どれも道具を肩にかけて負ったり、腰に装着して負う状態になるもので、矢を入れる箱筒状のものであったり矢を差し入れて立てる箱や籠状のものであったりします。もっとも古い語は「ゆき(靫)」です。

◎「ゆき(靫)」

「やいき(矢生き)」。矢が生きるもの。矢が(尽きて)死ぬことがないもの。箱筒形の、矢を入れる道具。紐がつき、肩から下げて携帯します。矢がなくなった場合、そこから矢を出して射るわけです。「大久米(おほくめ)の丈夫建男(ますらたけを)を先に立て靫(ゆき)取り負ほせ」(万4465)。

◎「やなぐひ(胡簶)」

「やはなぐひ(矢花食ひ)」。「は」のH音の退行化。矢の花を食うこと、矢の花を食うもの、という意味ですが、どういうことかというと、それに複数の矢を(鏃(やじり)を下向きに)入れると上部で(矢羽根のついた)矢が広がり、花開くようになり、その矢の花を食い入れているもの、という意味です。これは、予備の矢を入れて携帯するための道具を言います。これは腰に装着して矢を背に負うという状態になるのでしょうが、古い時代の筒状の「ゆき(靫)」の丈が短くなれば矢は開いて花になり、矢を受ける下の箱状部分が中心的に「やはなぐひ(矢花食ひ)→やなぐひ」と言われたのでしょう。花のように開いた矢が装飾的に整理されるように工夫されれば「えびら (箙)」になり、上部が毛皮などで覆われれば「うつぼ(靫)」になります。「けふ(今日)のよそひ(装ひ)いとなまめきて、やなぐひなど負ひて仕うまつり給へり」(『源氏物語』)。

「えびら(箙)」

「えびひら(海老ひら)」。これも矢を納めて負う道具ですが、多数の矢を(矢尻を下向きで)入れると海老が尾を開(ひら)いたような状態になります。