◎「うし(憂し)」(形容詞ク活用)

空虚感を表現する (→「う」の項。空虚感を表現する「あ」に遊離した動態感が生じているということ(→「う」の項・4月10日))による形容表現。空虚な不活性化した空しさや将来的な展望の無い不安感や憂鬱感にあることを表現します。「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」(万893:「やさし」は後世の、恥ずかしい、のような意。これは有名な「貧窮問答の歌」(万892)についている歌(下記※))。

動詞連用形についてその動態に不活性化していることを表現したりもします。「折らで過ぎうき今朝の朝顔」(『源氏物語』:どうも折りとらずにそのまま通り過ぎづらい)。

この語による「うき」が音便した「うい」が、その不活性感が緊張のほぐれと安堵のような表現となり、安堵するもの、のような意味となった表現が室町時代以降あります。これは、憂鬱ないやなやつ、といういみではありません。「一段うい奴ぢゃ」(「狂言記」)。「下郎のけなげなるを誉(ほむ)るは、有意奴(ウイやつ)也」(『諺草』)。

※ 「ついている歌」とは、長歌に添えられている短歌、という意味なのですが、これは『万葉集』などでは「返歌」とかかれており、一般に「ヘンカ」と読まれています(長歌に添えられる短歌を「反歌(ハンカ)」と言ったり「かへしうた」といったりすることも稀にあります)。一般に「かへしうた」と言うと、手紙の返事のような、歌に対する応答の歌になります。『万葉集』の「返歌」は「かへりうた」でもよいと思うのですが、誰もそう言っていません。

 

◎「うじ(蛆)」

「うじむし(蛆虫)」の語頭二音。「うじむし(蛆虫)」は「うねししむし(畝肉虫)」の音変化。畝(うね)のある肉(ニク:しし)の虫、の意。その形状の印象による名。蠅その他の昆虫の幼虫。