「いひあやけ(言ひ文け)」。「や」の脱落。「あやけ(文け)」は「あや(文)」の動詞化。「あや(文)」はその項(19年(去年)8月6日)。「いひあやけ(言ひ文け)いはけ」は、もの言ひ(言語活動)が複雑化し混乱し、思考の整理がつかない状態になっていること。言っていることがそのような印象であり何を言っているのかよくわからない。これが、思考の整理がつかず何を言っているのかよくわからない幼い子の状態を表現し、「いはけ」は幼児っぽい印象であること、子供っぽい印象であること、を表現します。「まだいはけたる雛遊び」(『源氏物語』)。

「いはけなし」は「いはけになし(いはけ似無し)」。「いはけ」であることに他に似たものがない、非常に「いはけ」だ、ということであり、非常に子供っぽいことを表現します。「いはけなき程より学問に心を入れ」(『源氏物語』)。この「~になし(似無し)→~なし」(非常に~だ)という表現はほかにもたくさんあります。たとえば「せつない・セッなし(切なし)」。これは「切(セッ)」が無いわけではありません。非常に「切(セッ)」だということです。

この「いはけ」は「いわけ」と表現され表記される可能性もあり、歴史的表記も「いはけ」か「いわけ」か明瞭ではない状態になっています。しかし、Y音が退行化し「いはけ」のほうがより正確ではないでしょうか。ほかに「いわけ(驚駭け)」という動詞もあります。