◎「いぬ(犬)」の語源
「いにう(去に『う』)」。「う」は唸り声の擬音。去(い)にながら、遠ざかるように身を引きながら、唸るその習性による名。動物の一種の名。「えのころぐさ(えのころ草)」(通称・ねこじゃらし)は「いぬころぐさ(犬ころ草)」(犬ころ、は犬をつまらないものとして表現したもの)であり、通称・ねこじゃらしと呼ばれる草穂が犬の尾に似ていることによる。この「えのころ草」の「えの」は鳴声による擬音。犬の鳴声が「えぬ」「えの」等により表現された。「えん、えん」のように鳴いたわけです。「いぬ(犬)」の方言には「いの」「えぬ」「えの」などがあります。
◎『狂言』の犬の鳴き声「びょうびょう」
古く、狂言台本などで犬の鳴き声が「びょうびょう」や「べうべう」と書かれましたが、この狂言台本は動物の鳴き声の物真似台本のようなものであり、しかも、そこに書かれる「び」や「べ」は後世におけるような純粋なB音ではなく、W音に力が入ったような音(オン)であり、たとえば「び」なら「ゐ(wi)」に、「べ」なら「ゑ(we)」に力が入ったような音(オン)なのです。つまり「びょうびょう」は「ゐぉうゐぉう」あるいは「ゐぉんゐぉん」の「ゐ(wi)」を強化し濁音化するような音(オン)、「べうべう」は「ゑうゑう」あるいは「ゑんゑん」の「ゑ(we)」を強化し濁音化するような音(オン)なのです。この「ゑうゑう」「ゑんゑん」の語頭がさらにA音化(ア音化)すれば「わんわん」にもなり語頭がB音化すれば英語の「bowwow(バゥワゥ)」にもなる。つまり、「びょうびょう」「べうべう」は「ゐ(wi)」や「ゑ(we)」の発音も退化した21世紀頃の日本人が明瞭なB音で読み、狂言師もそのように演じているから奇妙なのであって、実は表現は「わんわん」や「bowwow(バゥワゥ)」と同じようなものなのです。