◎「いちゃいちゃ」
「いちゃ」は、昔、若い女の、特に商家などで子守や乳母をしていた女の、通称。それは「いち(市)」という名(そこでの呼称)の女が多く、頻繁に「いちや。いちや」(「や」は呼びかけ)と呼び、それが通称になったのでしょう。つまり、子供(幼児)が「いちや。いちや」と乳母などに甘え放題、我がまま放題になっている状態―それが「いちゃいちゃ」(「ハウダイ(放題)」は、決まりがなく自由勝手なこと。「かって(勝手)」はその項参照)。男女間の状態を言うことが多い。男女のお互いがお互いに対しそうなっているわけです。「いちゃつく」という表現もあり、「いちゃつき」は単に「いちゃ」とも言い、もめごとも「いちゃつき」や「いちゃ」と言う。「いちゃいちゃ」が人同士が絡み合っているような関係を表現したということです。
◎「いちゃもん」
「いちゃモン(いちゃ文)」。「いちゃ」は、昔の、子守や乳母をしていた女の通称→「いちゃいちゃ」の項。「モン(文)」は文書を意味します、「チウモン(注文)」の「モン(文)」が期待や願望の内容を意味するように、この場合も意思内容を意味します。「いちゃ文(モン)」は(被害を受けた他者が)「いちゃ」に伝え訴える意思内容。この、「いちゃ」と呼ばれた、子供の世話係のような仕事をしていた女は、自分が世話をしている子供がしたことの責任を負い、その咎(とが)めを引き受けることも仕事の内容でした(江戸時代には、若い娘や嫁に関し同じ仕事をしていた「咎(とが)負ひ比丘尼(ビクニ:出家した女)」なる者もいまし。たとえば、法要の集まりなどでその娘が屁をしてしまった場合、その比丘尼が自分がしたことにして周囲に謝った)。つまり、他者が「いちゃ」を責め、「いちゃ」に訴えられる不平不満は実は「いちゃ」には何の実態も無い(いちゃには何の責任もない)ことだった。つまり、「いちゃもん」は、何の根拠もない不平・不満・非難。「いちゃもんをつける」。