◎「いで(出で)」
「いつとへ(「いつ」と経)」(A)と「いぬとへ(去ぬと経)」(B)の二種があります。
(A)「いつとへ(「いつ」と経)」の「いつ」は進行を表現する動詞→「いたり(至り)」の項。「と」は助詞。「いつとへ(「いつ」と経)」は動態が進行した経過にあることを表現し、「いつ」の「い」による進行の「つ」のT音による思念的確認、その到達的確認、は出現となり、これにより「いで(出で)」は「あらはれ(現れ)」と同じような意味になります。「かかる人も世にいで」。「舞台にで(出)」。「言(こと)にいでて」(言葉に現れて:これは、言葉に表して、という他動表現ではありません)。「宝をいで」といった表現もありますが、これは助詞の「を」が、目的ではなく、状態を表現しています。「言ひ出(い)で」、「取り出(い)で」、「染め出(い)で」といった表現もありますが、この「いで」も自動表現であり、それを客観的な立場から表現すると「言ひ出(だ)し」、「取り出(だ)し」、「染め出(だ)し」という意味になります。
「あしひきの山よりいづる月待つと」(万3002)。「お前にいづるに」(『源氏物語』)。
(B)「いぬとへ(去ぬと経)」は遠心的に動態が進行経過にあること、離れ、去り、いなくなる動態の進行経過にあること、を表現します。「ますらをの靫(ゆき:矢を入れて背に負う道具)取り負ひていでていけば別れを惜しみ嘆きけむ妻」(万4332)。「いで給ひて法師になり」(『栄花物語』:家や世を離れるような状態になり出家した)。「部屋をで(出)」。
この「いで(出で)」は「い」が無音化し、「海へいで」ではなく「海へで」といった言い方がなされ、動詞「で(出)」が評価される状態になります。「ほ(穂)にでし君が見えぬこのころ」(万3506)。それでも終止形は「いづる」でしょうけれど(→「色にづなゆめ」(万3376:色にでるな))、やがてそれも「でる(出る)」になります(「づ」にはなりません(それでは意味不明になります))。これは(少なくとも音表現として表面的には)活用語尾だけが動詞になる珍しい例です(「い」の進行感は表面に現れなくても伝わるということでしょうか)。語幹と活用語尾が一体化した例としては「くゑ(蹴ゑ)→け(蹴)」がありますが、それとも異なります。
この「いで(出で)」の他動表現は「いだし(出し)」ですが、これも「い」が無音化し「だし(出し)」になります。
◎「いだし(い出し)」
「いで(出で)」の他動表現。い出る状態にすること。これも「い」が脱落して「だし(出し)」になります。「いで(出で)」の意味の違いに応じて(→「いで(出で)」の項)二つの意味があります。「大船を荒海(あるみ)にいだしいます君」(万3582)・「元気を出す」(現す)。「ちゃう(帳)のうちよりも出(いだ)さずいつきやしなふ」(『竹取物語』)・「その地から人を追ひ出す」(去らせそこに居ない状態にする)。