◎「いさ(不知)」

「いえさは(いえ、さは…)」。「いえ」は否定の返事の言葉(10月13日)。「さ」は何かを指し示します。「は」は提示する助詞の「は」。「いえ、それは…」と否定感を表現しつつ何かを提示しその提示した何かに関しては曖昧にし明瞭なことは何も言わない表現。「さぁ…」と曖昧に何かをごまかすような表現です。

「いさとを聞こせわが名告(の)らすな」(万2710:さぁ…とお言いなさい。私の名は言わないで)。

「何の名ぞ、落窪は、と言へば、女いみじくはづかしくて、いさ、といらふ」(『落窪物語』:「いらふ」は、応答する、の意)。

「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしのかににほひける」(『古今集』:人は、さぁ…、心までもはわからないが、花は…)。

さぁ、どうだったか…、のように、記憶に明瞭さがないことを表現する「いさとよ」という表現もあります。「いさとよ。さる人見えしが…」(『平家物語』:さぁ…。そういう人はいらしたが…)。

◎「いざ」

「いえささ」。「いえ」は呼びかける発声。「ささ」は動感を表現するS音を投げかけ動きを誘発させようとします。すなわち、人を誘います。人を促し誘う言葉。促しなにごとかの行動へ向かいます。「いざ」はその発起です。「いざ刀(たち)合はさむ」(『古事記』)。「いざ鎌倉」。「いざ」だけで人が「いざ」となるような事態を表現したりもします。「いざとなったら…」。