◎「あぶし(溢し)」
「あぶれ(溢れ)」の他動表現。情況感を表現するR音の「れ」に対し動感を表現するS音の「し」が他動感を表現したということです。同じような自動・他動の表現関係としては「こぼれ(壊れ・溢れ)・こぼし(零し)」「たふれ(倒れ)・たふし(倒し)」その他があります。溢(あふ)れ(そして零(こぼ)れ)させること。
「さしも深き御心ざしなかりけるをだに、おとしあぶさず、とりしたため…」(落し余さず、に意味が似ています)。
◎「あぶし(浴ぶし)」
「あびふし(浴び伏し)」。まったく浴びる状態にすること。「ふし(伏し)」は『音語源』その項。「あび(浴び)」は「あみ(浴み)」とも言い、「あぶし(浴ぶし)」は「あむし(浴むし)」とも言います。状態を表現する「を」(『音語源』「を(助)」の項)により「水を~」と言った場合、他動(使役)的に「あぶせ(浴び伏せ)」にもなります。つまり下二段活用の「あぶせ(浴ぶせ)」もあります。
「湯わかしてあぶさんとしけるに…」(湯をわかしてその湯を浴びようとしました)。