これは「あなづり(侮り)」とも言います。「あなにとり(穴に取り)」。「あなづり」は「と」が前音の母音の影響で「づ」になっています。Aを穴に取る、とは、要するに、Aを何もないものとして扱うということです(「心ばせ人にとりつつ見そめ…」(心遣いの行き届いた人と認め…))。「あなにとり(穴に取り)→あなどり」は、まったく評価しないこと。「人にあなづらるるもの。築地のくづれ」。

これに関連し「あなづらはし(侮はし)」というシク活用の形容詞があります。これは「あなづりはひあし(侮り這ひ悪し)」。侮りの情況感が広がりよくない。人を侮る自分が「悪し」なのではありません。何かが、侮りを這はせるからよくない(人に侮(あなど)られるようでよくない)。「さだ(年頃)過ぎにたる有様もあなづらはしく」。また、自分が何かに侮りを感じること(何かを不存在なものとして対応すること)に否定的であることも表現し(その場合は「あなどりはひ(侮り這ひ)」が名詞のように作用します)、これは、不存在化させることができない、無視できない、心惹かれる、といった意味になります。「ゆかりはなれずあなづらはしき人をば、ただ御簾のうちにこそいれさせ給べけれ」。