「あ」は全的な感覚を表現します。たとえば「さる(去る)」の場合、「さ」がS音の動感とA音の全感により情況的動態を表現し「る」のR音はそうした状況があることを表現しますが、「あつ(当つ)」の場合、「あ」は「つ」の動態がどのように作用しているかを表現し、動詞動態の中枢は「つ」になります。「つ」はT音の思念感とU音の客観的動態感が動態の同動感を表現しますが(→『音語源』「つ(助動)」の項)、「あて」は語尾がE音化し、E音の外渉性はここでは他動性、他へ働きかける語感・何かに対する感覚を表現し、「あて」は何かに対し全的な同動感を生じさせることを表現します。それは物の物に対する同動感を生じさせること(→「額に手を当て」)もありますが、動態自体が何かに対する同動感をもって作用する場合もあり、たとえば推量が何かに対し全的同動感をもって作用した場合、その推量は「あて」を果たし「当たり」になります(→「クイズの答えがあたる」)。そしてものやことへの同動はそのものやことへの依存や期待も生じ、「あて」は期待や思惑、見込みといった意味にもなります。「あてにならない」や「あてが外れる」はそうした期待感や見込みが成り立たなかったり外れたりします。期待や思惑をすること(期待や思惑・推量が発動していること)を表現する用い方の「あて」もあります。「大将の君の御通ひどころ、ここかしことおぼしあつるに…」。