「あたゆもあひ(『あた』ゆ喪会ひ)」。これは『万葉集』の歌にある表現です。「あた」は「あつや(熱や)」であり、自分が熱さ(暑さ)を感じていることを表現し訴えています。鎌倉時代のものですが、重篤な熱病に罹った人が「あた。あた」と言っている描写があります。「ゆ」は助詞。この場合は原因を表現します(『音語源』「ゆ(助)」の項)。「もあひ(喪会ひ)」は、死んでいるわけではなく、喪にいるような、死にそうな、状態であることを表現します。「あたゆもあひ(『あた』ゆ喪会ひ):「あた」により喪に会ひ」は、熱病に罹っていることを表現しています。
「ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひわがするときに防人(さきもり)にさす」(万4382)。「ふたほがみ」は「ふたほきやみ(蓋祝き止み)」。「ふたほき(蓋祝き)」は相手の悪感情に蓋(ふた)をする祝辞。相手のご機嫌を損ねないようにするための祝(ほ)き。それが「やむ(止む)」とは、儀礼的で意味のない「ほき(祝き)」(ほめごと)を言っていられる状態ではなく、の意。「悪しけ(本来は、悪しき)」は古代東国の地方的表現。これは東国の防人の歌です。「万3412」にも「愛(かな)しけ児(こ)」という表現があります。「あたゆまひ」は前記。最後の「さす」は「指す」であり、指名し防人にすること。悪い人だ、こんな病気の時に防人にさせる、と言っているわけです。