(原文)

籠毛與 美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒 家吉閑名 告紗根 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曾居 師吉名倍手 吾己曾座 我許背齒告目 家呼毛名雄母

(読み)

籠(こ)もよ 美籠(みこ)持(も)ち 布久思(ふくし)もよ 美夫君志(みぶくし)持(も)ち 此(この)岳(をか)に 菜(な)採(つ)ます兒(こ) 家(いへ)聞(き)かな 告(の)らさね そらみつ 大和(やまと)の国(くに)は おしなべて 吾(われ)こそ居(を)れ しきなべて 吾(われ)こそませ 我(われ)こそは告(の)らめ 家(いへ)をも名(な)をも

(歌意)

美しい籠(かご)を持ち 美しい堀串(ふくし:手に持つ根堀の道具)を持ち この丘に菜を摘む娘 私の家を聞かないか(あなたの家を聞きたい:「聞かな」は、聞きなさいな、という勧誘も、聞きたい、という希望も、どちらも意味する) 告(の)りなさいな そらみつ大和の国は一面私でこそあれほかではない すべて私だ(「ませ」という尊敬表現は大和への敬い)…… 私は告(の)りてはいないか?( 私は告(の)りをしたぞ) 家をも名をも……(さぁ次はあなたの番だ(あなたの家は?あなたの名は?))

 

つまり、彼は、私の家は大和だ、私の名は大和だ、私は大和だ、と言ったのである。そして娘に、あなたの家は?あなたの名は?と問うている。娘がなんと答えたかは書かれていない。『私の家は大和です。私の名は大和です。私は大和です…』娘はそう答えたであろうか。