「あてさめむき(当て醒め向き)」の音変化。「向き」のアクセントは「仕向け」の「向け」に同じ。あてが醒(さ)める、とは、期待がなくなること、無意味・無価値になること。そうした姿勢で何かに向く(それに応じる)こと。無価値な者としてみくびり馬鹿にするといった意味にもなります。あざむかれた者としては期待通りにことは進まず、騙(だま)されたという思いが生じることもあります。

「(死んだ幼い我が子を)あざむかず直(ただ)に率(ゐ)行きて天路(あまぢ)知らしめ」(死んだ幼い我が子を、無価値な者として向かず、お見捨てにならず、魂が行く路を苦労なしに行けるように導いてやってください、と神に祈っています。騙(だま)さずに、と言っているわけではありません。神はそういうことはしません。これは万906。「知らしめ」は連用形名詞化でしょう。知らせることを乞ひ祈(の)むということ)。

「雪をあざむく御顔」(雪かと思うがそうではない→雪を思わせる(それほど白い))。「呉子・孫子をあざむき」(呉子・孫子かと思うがそうではない→呉子・孫子を思わせる・それに匹敵する)。

「風にあざむき」(もう何にも期待しなくなったような状態で風に向く)。

「大敵を見てはあざむき」(これは期待ではなく、予想。強敵なのではと思うようなことはなく応じ)。

「あざむかれたりしを梶原遺恨におもひて」(期待に応じないもの、たいしたことのないもの、と思われたことを恨みに思い。騙(だま)されたことを恨みに思い、という意味ではありません)。

「『あはれ運強き足利殿や』と高らかにあざむいて」(思っていたような者ではないと馬鹿にする)。こうした用い方の「あざむき(欺き)」は「あざけり(嘲り)」に意味が似ています。

期待を裏切る状態で対応するという意味にもなり、これは「いつはり(偽り)」と同じような意味になります。「あざむく。たぶらかしたる事なり」(『匠材集』)。21世紀では「あざむく」は「だます→敵をあざむく」のような用い方が一般的ですが、それを知っているだけでは少し古い文書になると意味を誤解することになります。