「あいなし」(形ク)は、「『あい』無し」。「あい」は、その人への働きかけがその人に届いたことやその人がその働きかけを受容したり応諾したりしたことを表すその人の、とりわけ女の、返事の言葉。つまり、何かを受け入れたこと、応諾・承諾・承知を表現します。

「あい無し」や「あい無く」は、そうした働きかけが届くことも、その受容や応諾も、無いことや、無い情況で、受容や応諾など問題にならない情況で、否(いや)も応(おう)もなく、何かが起こっていることを表現します。

「これはあいなし」――これは受容や応諾が無い→心にそぐわない。

「あいなきもの恨み」――一般に受容や応諾の無い、「もの恨み」として成立しない、無意味な、もの恨み。

「あいなきおほよその人々」――受容や応諾も無く、否も応も無く、居る、無関係な、一般の人々。

「あいなく御いらへ聞えにくくて」――受容も応諾も無く、自分の意思ではどうにもならない、情況におかれ、お応え申し上げにくく。

「あいなく好いたる若き娘たち」――受容や応諾も無く、否も応も無く、無関係に、好いた娘たち。

「人人忍ばれであいなく起き居つつ」――受容も応諾も無く、否であるか応であるかなど問題にならず、否も応も無い力に動かされるように、起きていながら。

関連する言葉では。「あいなだのみ」――「あいなく」頼む頼みであり、受容も応諾も無い、その頼みが叶うか否かなど問題にならない、否応も無い力に動かされるような、頼み、夢想。

「あいだちなし」(形ク)も参照(数件前のブログ)。