昼間のさわやかな日差しの中を歩くのはもちろん心地いい。
色づいた落ち葉が歩道を染め、歩くごとに小気味よい音を立てる。
刷毛で塗ったような雲が横切る青い空は、どこまでも遠い。
しかし、僕は散歩をしているわけではない。
同居していた元恋人の家に荷物を取りに行った帰りである。
恋の熱はおろか、すでに愛のぬくもりさえ分からないくらいの関係だったのに
別れてみると胸の中にぽっかりと空洞ができてしまったような気がする。
別れたきっかけは浮気だ。僕がしたんじゃなく、彼女がした。
相手に振られて、彼女は泣いて謝った。
でも、僕が振られた。
彼女は飲み会で僕より魅力的なやつを見つけた。
うまい具合にやつも彼女を気に入ったらしく、連絡先を交換。
しばらく連絡を取り合ううちに、2人で飲みに行こうという話しになる。
彼女は断らなかった。
少々飲み過ぎてた帰り、やつが彼女にキスをした。
そのさきは、流れでホテルへそのままずるずる・・・。
そういう話を僕は吸えそうな吸殻を探しながら聞いていた。
話しながら彼女は涙を流してた。ごめんね、なんていいながら。
そんなさなかに「ちょっと煙草買ってくる」なんていえるわけがないだろう。
「で、それから?」
僕はようやくマシな吸いがらを見つけて先を促した。
「それからって?」
「キスをしました、ホテルがそばにあって流れで入りました、で?」
「で?っていわれても・・・」
「入りました、出ました、ってわけじゃないだろ」
「そりゃそうだけど」
「続きは?」
彼女の涙はいつの間にか乾いていた。
でも、泣いてるより「何言ってんの、こいつ」って顔のほうがいい。
「ドアしめて、風呂?ベッド?」
「・・・おふろ」
「一緒に?」
「あとは酔ってたからよく覚えてない」
「へぇ、風呂入ろうとか思いつく程度には冷静だったのにね」
僕はテーブル越しに彼女の首筋を指でなぞる。
羞恥か怒りか彼女の顔が赤くなった。
指先が胸元に滑り降りると、彼女の手が反射的にそれを遮った。
「で、ここ舐められた?」
僕の指を握った手に力がこもった。
「それから?」
体を乗り出し、もう一方の手で頬を撫でる。
ガタンと荒々しい音を立てて椅子が倒れた。
彼女は頬を紅潮させて、泣きはらした目で僕を睨んでいた。
「なんなの、私のことどうでもいいの?」
ヒステリックな声で叫んで、彼女は部屋を飛び出した。
僕は吸殻に火をつけて思う。
つまるところ、彼女は僕に振りむいてほしくて浮気をしたのではなかろうか。
なのに、話は適当に聞き流し、それをネタに行為に及ぼうとする。
なるほど、彼女の怒りはもっともだ。
でも、僕にも言い分はある。
聞き流していたのは、そこが重要なことじゃないからだ。
心が揺らいで、誰かに惹かれるのは、僕にだって覚えがある。
僕が彼女にとっての最上級でなくなっただけの話だ、それはいい。
ただ、その肉体に他人が触れたという事実が頂けない。
だから、上書きしてなかったことにしたい。どうでもいいんじゃない。
ヒールを打ち鳴らす足音が遠のいていく。
誰かが触れた記憶をそのままに、僕に上書きさせることなく。
ああ、泣きたい。ドロドロしたセックスがしたい。全部なかったことにしたい。
***
遅れました。終われなかったので、そのうち続き書きます。