最近出会った言葉
柳緑花紅(やなぎはみどり はなはくれない)
自然はそのまま真実の表れである。
自然は皆、それぞれが個性を持ち互いに支え合って構成されている。
人間も誰一人、不必要な人間などこの世にいない。
一人ひとりがかけがえのない命を有し、その命をこの世に輝かせているのだ。
生前メリーさんが腰を掛け休んでいた長椅子が、元の場所に運びこまれタイルの床に置かれた。
馬のマークの入った重たい長椅子。
その椅子に今、呼吸し今を生きている五大路子が背中合わせに座る。
横浜ローザ18年目のポスターは“かつて戦後を生き抜いたメリーさん”と“今を生きる私”とのコラボで、森日出夫さんのカメラを通して命が吹きこまれる。
そして、ポスター撮影の後、馬車道から伊勢佐木町まで「無言の行進」をする。
私はこの日、朝から緊張感で小刻みに胸が震えていた。
1時間30分の舞台の中で生きる『横浜ローザ』が馬車道から伊勢佐木町までその想いと重さを引きずって歩く。
その命を存在させなくてはならない。その重圧で押しつぶされそうだった。
そして、「稽古のない舞台」が開く。
『その時 この街は、人々はどんな言葉を紡ぎ、その記憶を思い出すのだろうか』
私は急きょスタッフにお願いして関内ホールのベンチから歩きだすことにした。
ここは横浜ローザの公演スタートの場所であり、メリーさんの好きだった場所である。
一輪の赤いバラを持ち、真っ白なドレス、真っ赤な口紅、歌舞伎のくまどりのようなアイライン
横浜ローザは芝居から抜け出し、2013年5月21日の日差しの強い横浜市中区馬車道を歩きだした。
まっすぐ前を見て歩く
遠くで人のささやきが聞こえるが何を言っているのかわからない。
ザワザワと言葉の波が沸き起こる。
横断歩道で信号が青になるのを待っていると、前を行くバスの乗客がびっくりした顔でガラスに顔を押し付けている。
渡り切ったところで女子中学生がふたり目の前に現れて「何なんですか~?」「すご~い」「どうして真っ白なの?」「がんばってね」と声をかけてくる。
左側で若い女性「こわい!なんなのっ」
するとすぐそばにいた人が「あの人は昔この街にいてさー」と話している声が遠ざかる。
車の音、ギラギラ照りつける太陽の眩しさ、ふっと私をメリーさんに会わせてくれた元次郎さんというシャンソン歌手の人の声が聞こえてきた。
「みっちゃん 私ら時代に使い捨てにされてたまるもんですか!」
「どんな人の命も、どんな理由があるにせよ捨てさられ忘れさられちゃいけないのよ!」そんなことを考えていた。
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そして、以前松坂屋があったカトレヤプラザを通り過ぎ有隣堂にさしかかると外人が向こうから歩いて来て驚いた顔をして何かをしゃべりながら脇にそれて行った。
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私は道のど真ん中を腰をかがめて一歩一歩ゆっくり歩み進める。
ある中年のご婦人は「エー!?」と大きな声を出し、たくさんの人が携帯で写真を撮っている。
脇道の店の人たちも覗きに道へ飛び出している。
何かささやいている声が遠くに聞こえる・・・・・。
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白塗りの化粧品をメリーさんにおしえたというおかみさんの話が頭の中に蘇る。
「最初はアメリカのマックスファクターの高級化粧品だった。でもお金がなくなって日本の500円のおしろいを教えてあげたの。すぐ真っ白く塗れて安いでしょう」
この道の先にかつて米軍キャンプのかまぼこ兵舎があり、飛行場があったこと。
夕方5時になるとその門が開きたくさんの米兵が街に繰り出していたことなど、この歩いている足元の大地はそのことを知っている。
たくさんの人々の踏みしめた足の重さや生きた命の鼓動を。。。
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不二家の前、無言の行進終了予定地点に着く。
今、彼女が大好きだったこの横浜に蘇ったら私が今見ているこの光景と空気と時の風を感じなんと言うのだろうか。
「この世に不必要な人間などいない。私はあの時をそしてあれからを精いっぱい生きた」そんな言葉が聞こえてきた。
そして、私は「路子さん!」の声に我にかえった。