昨日、立候補者3人の演説を聞いた。安倍政治を「継承」する菅義偉氏(71)、安倍政治を「修正」する岸田文彦氏(63)、安倍政治を「改変」する石破茂氏(63)の3人のポスト安倍候補である。安倍政権の大黒柱である菅氏の演説に、何の新しい方向性は感じられない。菅氏が両議院総会で、新総裁に選ばれることは確実とみられている。細田派、麻生派、竹下派、二階派、石原派は菅氏を支援している。「勝ち馬に乗る」現象が生じている。国会議員票(394)、地方票(141)の過半数(268)の得票で当選となる。国会議員票だけで、300票と予想される菅氏の総裁は決定的と見られる。関心としては、地方票の出方である。ほとんどの都道府県で、党員投票が行われ、各3票に反映されることになっている。多少時間がかかっても、完全な党員投票をやるべきだと思っている人が多いのではないか。結果は変わらないかもしれないが、プロセスが可視化されることが大事ではないか。「密室談合」政治からの脱却が求められている。

 日本の将来へのビジョンを3人の候補が誰一人として語らなかったことは、非常に残念である。総裁に選出されれば、国会で総理に指名されるからだ。直面しているコロナ対策や経済対策に対応することは当然なことである。その具体的対策こそが焦点となるべきだ。

菅氏は「自助、共助、公助の絆」をスローガンに掲げた。岸田氏は「分断から協調へ」と石破氏は「納得と共感」を。省庁改編には3氏とも意欲を示し、菅氏「デジタル庁」岸田氏「データ庁」石破氏「防災省」を唱えた。今までも縦割り行政の弊害は指摘されてきたが、何にも変わってはいないのが事実であり、「既得権益」の壁は実に大きい。各省庁の「縄張り意識」の強さは尋常ではない。それは官庁、役所に限られたことではない。人間そのものの意識に起因しているものだ。出世主義のエリート官僚による政権への「忖度」が問題になっているが、いまさら始まったことではない。内閣人事局の設置によって、その度合いが強まったに過ぎない。菅氏は否定しているが、内閣官房の権力が増大したことは事実であり、メディアへの圧力も強くなり、メディアそのものが委縮し、メディアの使命を失っている。TV報道にしても偏っている。野党の合流新党の代表選が同時進行で進められているが、報道されることは少なく、霞んでいるのが実態ではないか。それほどの引力がないことは確かであるが。

 それにしても、菅氏は、原稿から目を離さずに読む姿は、演説には程遠いと感じざるを得ない。まさに発信力の弱さを感じる。自分の言葉でしっかり話すことができるのは、石破氏が抜けていると思える。論理的な政治論が語られ、正論との印象を持ったが、憲法改正では、自民党草案に触れたが、持論の防衛軍の創設までは、語ることはなかった。岸田氏は真面目な性格を感じさせるが、アベノミクスのトリクルダウンは起きなかったことに触れ、中間層に配慮すべきと語った。現実主義こそ保守であると持論を展開していた。三人の特徴がよく出ていた演説会だと感じたが。毎日新聞によると、弘兼さん、荻原さんの感想は、菅氏「不安が残った」、岸田氏「総花的だった」、石破氏「話しぶり堂々」とある。いずれにしても、主権者は国民であり、国民のための政治を行ってもらいたい。