連日、「年金問題」がメディアに取り上げられている。金融審議会・市場ワーキング・グループ報告書・「高齢社会における資産形成・管理」に関する問題だ。麻生金融担当大臣は、このワーキンググループ(WG)の報告書を受け取らないと言っている。金融庁は、財務省の所管であり、WGのメンバーを任命し、指示したのは、麻生副総理兼財務大臣であり、政権官邸主導である。つまり、安倍総理、麻生副総理、菅官房長官の政権責任は重い。「老後資金」に2000万円が必要であり、年金をあてにせず、資産形成し「自助努力」が必要との報告書が報道された。その根拠となる資料は、年金所管の厚生労働省の金額算定に基づいていると言うことだ。無職の高齢者夫婦二人(夫65歳以上、妻60歳以上)の月別収支に5万5千円の不足、つまり赤字(麻生はこれを誤解と言う)が出るとの試算だ。年に換算すると、66万円になる。政府は、「人生100年時代」と言っている。この数字に、年金受給開始の65歳から30年の老後生活を想定すると、1980万円の計算になる。故に、65歳時には、2000万円の貯蓄が必要となる。これはあくまでも、厚生年金受給者の夫婦二人のモデルケースの場合を想定している。モデルケースは、高齢者夫婦の受給平均よりも上であることを知らなければならない。

 個人情報であるが、私のケースを正直に書く。私は、静岡県立高校教員生活38年間務め、60歳定年時に、共済年金が支給開始された。国民年金の支給開始は64歳であった。再任用で64歳まで働き、退職した。体調に不安があったために、非常勤講師として働くことを辞めた。それ以来年金暮らしである。私の年金収入はモデルケースの範囲の下の階層と認識している。年金生活の現実は、退職金を切り崩している生活だ。年金生活になり7年が経過している。年間50~60万円ほどの「赤字」になっていることは事実である。年金だけの生活では、食費・光熱費・公共料金・通信料・医療費・車の維持費等の支払いで、外食もほとんどできないし、旅行もできないのが現実だ。わずかな衣服の購入や家の修繕費用にもお金がかかる。旅行にしても、年に1回程度で、外食も月に数回だが、すべて「赤字」になっている。私よりも生活が大変な高齢者夫妻はたくさんいることを承知している。麻生太郎のような資産のある政治家には理解できない高齢者の生活レベルなのだ。一部の高齢者は、莫大な財産を持っているのも事実だ。

 この報告書の冒頭部分(はじめに)を引用する。

「近年、金融を巡る環境は大きく変化している。例えば、デジタライゼーションの急速な進展により、金融・非金融の垣根を越えて、顧客にとって利便性の高いサービスを提供する者が出現している。こうした者の出現や低金利環境の長期化等の状況と相まって、金融機関は既存のビジネスモデルの変革を強く求められている状況にある。 こうしたなか、金融を巡る特に大きな背景の変化として挙げられるのが、人口減少・高齢化の進展である。わが国の総人口が減少局面に移行した中、長寿化は年々進行し、「人生100年時代」と呼ばれるかつてない高齢社会を迎えようとしている。この構造変化に対応して、経済社会システムも変化していくことが求められ、政府全体の取組みとして、高齢者雇用の延長、年金・医療・介護 の制度改革、認知症施策、空き家対策など多くの政策が議論されているが、金融サービスもその例外ではなく、変化すべきシステムの一つである。政府全体の取組みや議論に相互関連して、高齢社会の金融サービスとはどうあるべきか、 真剣な議論が必要な状況であり、個々人においては「人生100 年時代」に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている。 このような問題意識の下、金融審議会市場ワーキング・グループにおいて、高齢社会のあるべき金融サービスとは何か、2018 年7月に金融庁が公表した「高齢社会における金融サービスのあり方(中間的なとりまとめ)」を踏まえて、個々人及び金融サービス提供者双方の観点から、2018 年9月から、計12 回議論を行い、その議論の内容を報告書として今回提言する。本報告書の公表をきっかけ に金融サービスの利用者である個々人及び金融サービス提供者をはじめ幅広い 関係者の意識が高まり、令和の時代における具体的な行動につながっていくことを期待する。 他方、高齢社会への対応は世界各国共通の課題であり、諸外国においてもわが国と同様に手探り状態で議論され、発展途上段階にある。このため、今後様々なビジネス・学術分野等におけるプラクティス(取組み)が積み重なる中で、その対応が進化していくものと考えられる。今後の更なるIT 技術の進展や金融ビジネスモデルの発展社会的意識の変化など、前提条件も急速に変化していくことが見込まれるところ、本報告書は金融面でのこうした対応の始まりと位置づけられるべきものであり、金融サービス提供者による取組み等の状況について、例えば四半期ごとにフォローアップをしていくことが望ましい。今後とも、金融サービス提供者や高齢化に対応する企業、行政機関等の幅広い主体が、 今回の一連の作業を出発点として国民に本報告書の問題意識を訴え続け、国民間での議論を喚起することにより、中長期的に本テーマにかかる国民の認識がさらに深まっていくことを期待する。」

 この報告書は、老後の生活は年金では賄えないから、長期的な個人投資を勧めている報告と読むのが普通の解釈だ。「投資バカ」(荻原博子著)がベストセラーになっているようだ。2004年に、公明党のマニュフェストには「年金100年安心プラン」が掲げられていた。

インターネットから引用する。「かつて政府は『年金100年安心プラン』をうたっていました。04年当時の小泉純一郎首相(77)によって国庫の負担を増やし、もらえる年金額を抑える仕組みを導入。さらに現役世代が支払う年金保険料を13年間、段階的に引き上げることにしました。そうした“痛み”に耐えれば年金は安泰だと、太鼓判を押していたのです」(全国紙記者) しかし今回の報告書により、“100年安心”ではないと露呈してしまったことに……。そのためTwitterでは《くらせる公的年金を保障するのは国の責任。その信頼関係があるから、高い保険料を国民は払っている。それを年金だけではくらせないから自分で投資して資産をつくれ、と言い出す。ふざけるな! という思い》という怒りの声や、麻生氏の態度について《他人事のような国会議員の、罪悪感ゼロコメント》《「自分たちで老後に備えろ」って年金を運用している政府の人間が口にしてはいけないセリフだと思う》と批判の声が上がっている。」

 私は、この「年金100年安心プラン」には、疑問を抱いていた。支える世代が減少し、支えられる高齢者が増え続ける社会との矛盾する関係にあるのが、「年金問題」である。公明党及び自民党は、国民が納得できる説明責任がある。まともな説明がなされていないために、年金に対する不安は増幅している。働くのが精一杯で、投資どころではなく、貯金さえもできない暮らしをしている人の声を聞けと言いたい。2007年には、「消えた年金」が発覚した。公的年金保険料の納付記録漏れが5000万件に及んだ。この問題が、参議院選挙惨敗と第1次安倍政権崩壊へとつながった。年金に対する国民の不安が再燃している。第2次安倍政権は「無責任政権」と断じる。

 今朝(6月17日)の毎日新聞「風知草」(山田孝男)の引用の一節(「選挙制を疑う」)「政治はいつの時代にも可能性の技術だったが、今日では粗探しの技術になっている」。自民党長期政権の日本には「粗探しをかわす技術」もある。このコラムの結びは、「野党はなんでも政権打倒へ飛躍せず、政府・与党も対話に価値を認め、国民の腑に落ちる討論の充実に努めてもらいたい」である。

 私個人は、公明党が政権与党でのブレーキ役を期待していただけに、実に残念である。それどころか、安倍政権に加担していると思えてならない。「平和と福祉」を看板に、「大衆とともに」の党是はどこに消えたのかと怒りを抑えることはできない。政府・与党は「年金問題」に対し、国民の納得できる「説明責任」を果たしてもらいたい。