英語のスペシャリストである鳥飼玖美子氏の著書「本物の英語力」を読んだ。

「英語格差」を克服する究極の学習法との副題である。

英語格差は、English divide と表記されている。最近では、経済的格差や

男女格差、格差社会との言葉はよく耳にする。英語格差との言葉を初めて知っ

た。英語を使えるかどうかで格差が生じているとのことだ。

 題名の「本物の英語力」を英語でどう表現したらよいのか考えてみた。

「本物の」に相当する英語は、genuine, true, real がある。genuine,

true の反意語は false(偽の、嘘の)になる。「英語力」の「力」に相当す

る単語に、strength(強さ), power(力), ability(能力), capacity(力量),

proficiency(熟達)がある。「実際に使いこなせる英語力」と理解すると、

real English proficiency ではないかと思うが。このように日本語を英語

へ、また英語を日本語へと表現することは容易ではない。アニメ映画の

「アナと雪の女王」で大ヒットした主題歌の「ありのまま」は、Let it go.

を訳したものだが、訳そのものは正確ではない。直訳して「勝手にさせて」

や「放っておいて」では、日本で受け入れなかったのではないか。

「文化の違い」を垣間見ることができるようだ。

 この本の項目内容は次の通りになっている。

第一部・英語は基礎力。発音、語彙、コンテクスト、文法。

 第1講 「なんで英語やるの?」

 第2講 「発音」は基本をおさえる

 第3講  先立つものは「語彙」

 第4講 「コンテクスト」がすべてを決める

 第5講  話すためにこそ文法

第二部・英語の学習法。訳す、スキル、試験、デジタル、映画。

 第6講  訳すことの効用

 第7講  英語はスキルか内容か

 第8講  英語力試験にめげない、振り回されない

 第9講  デジタルと英語教育

 第10講 映画で英語

 第11講 長崎通詞の英会話

第三部・英語の実戦。語学研修、留学、仕事。

第12講 英語を書く

 第13講 語学研修と留学

 第14講 仕事に使える英語

 第15講 英語学習は未知との格闘

 学校教育の「グローバル化」の中心が「英語」になっているが、英語力は

上がっているのだろうか。中学英語レベルの「基礎力」が不足している高校生

や大学生が増えているのが現実のようだ。

 1990年代から、授業で「オーラル・コミュニケーション」が重視される

ようになり、伝統的な「文法訳読」が否定される流れに変わった。学校週5日

制が完全実施されたのが2002(平成14)年で、同年度から小中学校で

「ゆとり教育」が実施され、高校では、2005年度の入学生から「ゆとり

世代」を教えることになる。生徒の基礎学力の低下を実感したことを記憶して

いる。私が在職していた進学校では、週2時間の「オーラル・コミュニケー

ション」を1時間にして、1時間を「英文法」の時間にしていた。名目と実質

は異なっていた。私が退職した年の2012年度から教育課程が変わり、高校

では、原則として英語の授業を「英語」で行うようになった。それにもかかわ

らず、「英文法」を進学校で教えているのが現状のようだ。

「文法の影が薄くなったせいか、最近、多くの大学で囁かれているのが、入学

者の基礎力不足です。今の学生は語彙力がないので読み書きが苦手な上に、

英語の文法を知らないようで、主語や動詞がない英語を書く、現在と過去が

判然としない、単数と複数の区別がつかない、いったいどうなっているのだろ

う、と英語教員は頭を抱えます。これではレポートを英語で書くことなど無理

だし、発表や討論も難しい、と補習に踏み切る大学も出てきています。」と

書いてある。「いったいどうして学校では、文法を教え続けるのでしょうか。

理由は、英語を使えるようになるためには、基本的な文法を教えないわけには

いかないからです。」「学校で教えられている英語の文法は、『学習英文法』

と呼ばれ、学習者にとって分かりやすいように英語の仕組みを説明したもので

す。つまり、ふつう私たちが『英文法』と言っているものは、例えてみれば、

スポーツのルールみたいなものです。スポーツには必ずルールがあり、選手は

そのルールに従って試合をします。スポーツをやりたいと思ったら、ルールを

学んで技能を磨くしかありません。英語も同じです。英語を使いたいと思った

ら、ルール(文法という規則)を学び、スキル(聞くこと、読むこと、書くこ

と、話すことの4技能)を磨くしかありません」と筆者は英文法の必要性を書

いている。私の英文法に対する認識と変わらない。基礎は土台であり、土台な

しには建物を建てることはできない。大事なのは「何のための」英文法なのか

だと思っている。以前のような「受験のための英文法」には害があることは

確かだ。例外を覚えなければならないような英文法は否定されても当然だが、

英語の骨格をなす英文法を否定することは間違いだと思っている。英語の基礎

はしっかりと教えるべきだ。オーラル・ワークだけでは何も定着しないのが事

実である。鳥飼氏は、たくさん英語を読むことを勧めている。基礎を学び、

英文をたくさん読むことで、情報をインプットしなければ、アウトプットはで

きないとの考えと理解している。英語学習は「未知と向き合い異質性と格闘す

ること」だと説明している。言語に潜む「文化」を無視してはいけないとも言

っている。「異文化理解」は、意欲と継続する努力を必要とするということで

はないか。

 言語は音と文字から成り立っている以上、「音」を正確に出せなければ、

コミュニケーションは成り立たない。発音は独学が難しく、学校できちんと教

えなければならないことだ。調査によると、英語の発音指導に自信のない先生

が中学で約36%、高校で約20%、自分の発音に自信がない先生が中学で約

48%、高校で約20%との結果が出ているそうだ。2020年度から、

小学校高学年に英語が「教科」になる問題点がここにあると私は考えている。

英語を教える中学の教員の約半数が発音に自信がない状況で、英語を専門にし

ていない小学校の教員のほとんどが発音に自信があるはずがない。私の経験で

は、発音記号の学習をしないことが主な原因だと考えらる。私は中学生の時に、

発音問題が苦手だったが、2年生の時に発音記号を単語帳に書いて、先生や

優秀な同級生の発音を聞き真似をして、発音記号を独習した。発音がわからな

い単語でも辞書を引けば発音できるようになった。今では電子辞書がある。

音声が出るので、意欲があれば独学は可能だと思っている。発音の基礎は、

アルファベットの26文字の発音の仕方にある。b と v の違い、f, m, n の

音の発声、l と r の違いは難しいが大切だ。そうでないと、light(光、軽い)

と right (正しい、権利)、write(書く)の区別ができない。th の発音も

大事だ。think (思う)と sink (沈む、流し)の区別がつかない。口や舌の

使い方は教わらなければ難しいことは確かであるが。教える先生が自信が持て

ないようでは困る。

「英語の基礎」とは、簡単に言うと、「発音」と基本的な「文法」及び英文の

「読み方」だと考えている。「多読」と「精読」の読み方があり、両方とも

大事だ。以前の授業では、精読に偏り過ぎていたと言える。英語を英語のまま

読んでいく多読が重視されることはいいと思うが、精読も必要なことを忘れて

はいけないと思う。「文法訳毒」ということにはならない。車の両輪というこ

とだ。

このことを英語のスペシャリストである鳥飼氏の本を読んで意を強くした。

まさに次のことわざが言い得ている。There is no royal road to learning.

「学問(学習)に王道(楽な道)はない」

意欲やモチベーションの原動力は「必要性」にあると思う。

Necessity is the mother of invention.(必要は発明の母)だ。

鳥飼氏の結論は、「外国語は、自らが学ぶ意欲を持って主体的に取り組まなければ

成果がでない、というのは、外国語が基本的に『未知』であり『異質』であること

が大きく関わっているからです。」となる。「英語なんて簡単だ!」ということに

はなりませんね。