「アルファ碁」の言葉は、一般にはなじみのないことだろう、私も今年にな

って知ったばかりだ。

 「アルファ碁」は、米グーグル傘下の人工知能(AI)開発ベンチャーであ

る英国の「ディープマインド」社が開発した囲碁ソフトである。昨年の10月

に、極秘裏にヨーロッパチャンピオンのプロ棋士・ファン・フィ2段と5局対

局していた。「アルファ碁」が5戦全勝したことを、今年になってネイチャー

誌に発表した。囲碁関係者だけではなく、人工知能研究者を驚かせた。

 3月に世界最強棋士の一人の韓国のプロ棋士のイ・セドル九段との対戦が決

まった。プロ棋士に勝つまでは、アマのトップクラスの実力は認められていた

が、プロ棋士に勝つには、あと10年はかかるだろうとの見方が専門棋士の間

でも言われていた。私個人も同じような認識をしていた。そのような予測をし

ていた段階で、「アルファ碁」がプロ棋士に勝利していた。そのことが1月に

発表されたのだ。

 3月9日から15日の日程で5戦をを行い、勝ち越した側に賞金100万ド

ル(約1億1300万円)が贈られる。第1戦では、「アルファ碁」が立ち上

がりからの激しい攻防を抜け出し、186手で黒番イ・セドル九段が投了した。

5回戦の第2戦が10日、ソウルのホテルで行われ、「アルファ碁」が連勝し

た。イ・セドル九段は記者会見で「完敗。アルファ碁が完璧で終始リードでき

なかった」と語った。「アルファ碁」は序盤、変則的な手を連発。中盤以降で

リードを鮮明にし、最後まで隙を与えなかった。解説の高尾紳路九段は、中盤

までは白番のイ・セドル九段の形勢が良いと判断していた。終盤では、イ・セ

ドル九段の負けを認めた。「アルファ碁」の形成判断はどう行っているのだろ

うかと言っていた。高尾九段は序盤から中盤にかけては、イ九段の有利な展開

で負けないと判断していたが、その判断が間違っていたということになる。

イ・セドル九段は今月、日本の7大タイトル独占に挑んでいて、初戦に勝利し、

日本囲碁史上初の快挙が目前となっている井山裕太九段(26)に勝利した

世界的な実力者である。

 私の友人のアマ高段のEさんは、「最初から最後まで見たけど、解説ではひ

どい手と言っていても、今までの価値観とは違うような気がします。結局勝て

ないのだからね。1勝もできないような気がしてきました。コンピュータは気

持ちの乱れもなく、自分の最善手を打ち続けることができる力があるのだと思

います。とうとう囲碁もコンピュータに超されたが.....」と私へのメールで

書いていた。私は「新時代の潮流」を感じている。

 第2局を中継していた韓国棋院の解説者たちは「解説」ではなく「疑問」を

連発した。「アルファ碁」が打った手に戸惑いを隠せなかった。「アルファ碁」

の予測できない変則的な手や、ミスだと思われた手を到底説明できないといっ

た様子だった。イ・ヒソン九段は「どうやってこの碁がアルファ碁が勝てる碁

になったのだろうか」とため息をついた。中盤までイ・セドル九段が有利だと

見ていた解説者たちは、後に「アルファ碁」の方が有利になっていくと謝罪し

た。この日解説していたソン・テゴン九段は「視聴者の皆さんに申し訳ない。

イ・セドル九段の敗着(敗因となった石の置き方)が分からない、人間の目で

見ると、「アルファ碁」はミスばかりしていた。今までの理論で解説すると、

「アルファ碁」の囲碁は答えが出ない」と言った。対局が終わった後、ソン九

段は「対局を見ながら中継している間、狐につままれたような感じだった」と

語った。

 日韓のトップクラスのプロが「アルファ碁」の打つ手に戸惑いを見せ、解説

できないことが判明した。コンピュータソフトはここまで進化したという事実

を我々人間は率直に認めなければならない。人間が創り出したコンピュータ技

術を悪用することになれば、原爆の二の舞になり、ロボットに支配されるSF

の世界が現実化する怖れがあるということがわかったのだ。「人間の価値観の

転換」と「人間の在り方」が問われる時代へと大きく変化していることを知ら

なければならないと私は感じている。