教師の原点は何だろう。おそらく一人一人違うと思う。以前、読んだ英文の短い物語に感銘を受けたので、私の翻訳で、ここに紹介する。教師の使命は、一人の生徒を慈しみ、愛情をかけ、励まして育てることにあると、この物語を通して再認識した。
 トンプソン先生(独身の女性)は小学校の先生で、新学年度(アメリカでは9月)に5年生を受け持つことになった。生徒を前にして「あなたたち一人一人を同じように愛しています。 私のクラスでは、全ての生徒と同じように接していきます。」と心にないことを言った。クラスの生徒の中に気がかりな生徒がいた。3列目に座っているテディと言う名の男の子だった。先生は、テディは他の子どもたちと仲良く遊べないことを知っていた。本音は、面倒な子を抱えたとの思いだった。担任はクラスに面倒な子を抱えると、その子に関わる時間的・精神的労力が大きいものだ。先生は子どもたちの過去の指導記録に目を通すことにした。テディの記録は後回しにした(気持ちはわかるけど)。最後に彼の記録を読んで愕然とした。
 2年次の先生は書いていた、「テディは頭がよく好奇心旺盛で、よく笑う子どもです。自分の仕事をきちんとやり、礼儀正しく、一緒にいると楽しい子どもです。」3年次の先生は書いていた、「テディは優秀な生徒で、クラスの生徒から好かれているが、母親が末期の病気なので、悩み、家では苦しんでいるようだ。」4年次の先生は書いていた、「テディは暗く内向的で、学校に興味を示さず、友だちもいなく、時々授業中居眠りをしている。物覚えが悪く、問題児になるだろう」今、トンプソン先生はテディの問題がよくわかった。
 クリスマスが近づき、トンプソン先生は、忙しさにまぎれテディに関わっていられなくなった。クリスマスには、生徒が先生にプレゼントをすることになっていた。テディ以外の生徒は、きれいなリボンのついた包装紙に贈り物を包んでいた。テディの贈り物はしわになった雑貨店の紙に雑に包んであり、その中身は、いくつかの石が欠けおちたブレスレットと4分の1残っているコロンのビンであった。それを見て生徒の中にはくすくすと笑いだす子もいたが、トンプソン先生は、そのブレスレットをきれいだねと言ってコロンを手首に少しつけた。授業が終わってから、テディは遅くまで残って、「トンプソン先生、今日の先生は僕のママと同じ匂いがするね。」と言った。トンプソン先生は声を出して泣いた。
 その日から、トンプソン先生は子どもの気持ちを理解して授業をするようにした。特にテディに注意を払い、励ましてあげた。彼はもとの良い子に戻ってきた。先生が励ませば励ますほど、ますます成績もよくなった。5年生の終わりには、クラスで最も優秀な子どもの一人になった。
 この物語を通して、生徒の気持ちを理解する努力と、心からの励ましが人を変え、成長させていくと共に、教師自身の成長へとつながる教育の原点を思い起こさせてくれた。