ある会社のマネージャーが、三十年近い歴史がある製造部門の事業所を任されて、二か月くらい経過した頃の話だ。
 その一か月前に中途採用されたという企画部門の部長が、「視察」という名目でその事業所にやってきた。
 その部長は、突然、事業所の若いチーム長達を集めて、「私はこの事業所の立て直しにやってきた」「前職で製造部門の事業所長を任されていたが、うまくいかず退職したので、この事業所で、そのリベンジを果たすのだ」といきなりぶちまけた。
 その話の後、「これはダメ、あれはダメ、こう変えろ」「私には専門知識がある」と、チーム長達の意向をしっかり受け止めることなく、事業所全体を掻き回し始め、毎月二回くらい、その事業所への訪問を続けるようになった。
 それまで、事業所がより良くなるようにと、あれこれ手を打ってきたチーム長達だ。
 これまでのやり方が、すべてベストであるとは思っていなかったが、突然やって来て、これまでの経緯をしっかり聴くこともなく、いきなり「立て直す」と言われて、頭に来ないはずもない。
 ましてや”リベンジ”は、その部長個人の問題で、ぶちまけられた事業所には何の関係もないことだ。
 チーム長達の心には「前職で事業所をダメにしたくせに、何を偉そうに」「あなたに何ができるのか」という想いが拡がり、当然、チーム長達の気持ちは、その部長から離れていくことになった。
 その部長を採用した会社側は、前職で製造部門の経験があるため、製造部門にもアドバイスしてほしいと、伝えていたようだ。
 あくまで企画部門の部長として採用されたのだが、勝手な勘違いと自尊心から、いわゆる出過ぎた真似をしたのだ。
 そもそも、そんな勘違いをして出過ぎた真似をする人物を部長として採用する会社も問題だが、前職でうまくいかなかったのも分かる気がする。
 会社の人事異動で、組織の活性化や立て直しを目的に、責任者として新しい職場に配属されることがしばしばある。
 その際に最も大切なことは、いきなり改革を進めていくことではなく、配属された職場の、それまでに培われてきた「伝統」や「風土」を尊重することだ。
 その「伝統」や「風土」が、正しいか否かではなく、あくまで尊重するのだ。
 どうしてそのような「伝統」や「風土」が培われようになったのかを、しっかり把握する。
 その上で、職場の仲間とともに、より良い「伝統」や「風土」を築けるように、改革を推進していくのだ。
 「伝統」や「風土」の尊重なくして、改革の円滑な推進はない。