前回、手帳に関する記事を書いたからだろうか。
机の下の本棚を見ると、昔のモレスキンが目に入った。
テプラで作ったシールが貼ってある。
"14 DEC 2009~22 APR 2010"
取り出して最初に開いたページには、片岡義男氏の言葉が抜き書きしてあった。
確か図書館で借りた本のはずだが、タイトルは思い出せない。
ただ、その文末に「片岡義男」とだけ書いてある。
こんな文章だ。
『手帳という記憶装置を、頭という演算装置に視線というケーブルにつなぐ。手帳を開くと、電源がオンになる。ケーブルを経由して入ってくるさまざまな記憶を解析しながら並べ替えそのすべてをつらぬく抽出経路を作ると、そこに理論が生まれる』
クールだ。
おれはしばらくこの文章を反芻した後、他のページをめくる。
"春雨スープいいかも"
"メール設定についてプロバイダに電話"
"ソファ→粗大ゴミ"
"つなぎの合羽を拾う夢を見る"
…おれの抽出経路はかなり遠回りしているようだ。
おれはページを閉じて耳を澄ます。
やがて聞こえてくるはずの音を待っている。
理論が流れ出す音を待っている。
おそらくそれは鼓動に似ているはずだ。
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