昨日、産業革新機構が主導する、東芝、日立、ソニー3社の中小型液晶事業の統合のニュースが発表されました。携帯電話やスマートフォン、あるいは車のナビやインパネ等に使われる中小型液晶ディスプレイは、私が前職で深くかかわった業界ということもあり、非常に思い入れがある事業です。

今回発表されたのは東芝、日立、ソニーの三者ですが、中小型液晶事業はこれまでにも何度か大規模な業界再編を行ってきました。そのため今回発表になった東芝には松下の血が、ソニーには三洋電機とエプソン(あとマイナーですがIBM)の血がそれぞれ入っています。そういう意味では、今回の統合は、日本の各総合電機メーカーが抱えていた液晶部門の歴史を背負ったものといえます。

エレクトロニクス業界では、同じような統合が半導体業界で一足先におきました。その結果、メモリー専業のエルピーダメモリと、ロジック専業のルネサスエレクトロニクスという2つの会社に最終的に集約されて、2社ともぎりぎり世界的に競争できるポジションを維持しています。液晶業界も、今回の統合により発足する「ジャパンディスプレイ」とシャープの2社に集約され、それぞれが世界シェアNo.1とNo.2のポジションを占め、日本の液晶事業もようやく世界的に競争力のある体制になったと言えます。

今回の統合構想は、中小型液晶業界では数年前から描かれていたもので、私も前職で4年ほど前に、今回の構想と内容はほぼ同じ内容の構想を描いていました。
・過当競争を緩和するために、世界第1位であるシャープ以外の、主要日系液晶メーカーを1つに集約する
・約1,000~1,500億円をかけて、生産性の高い第5世代で、高精細ディスプレイが作れる中小型液晶専用ラインを作る
・あわせて、全国各地に点在する生産性の低い旧世代(第3世代以下)の生産ラインを廃止し、第4世代以上のラインに集約する

ただし、当時は今回の産業革新機構のように大規模かつ比較的長期スパンで出資してくれそうなファンドはなく、また高精細液晶が使われるスマートフォンのような先端デバイスの存在もまだ見えていなかったために、構想だけに終わってしまったという経緯があります。今回、スマートフォンの市場の急成長という後押しと、産業革新機構のようなファンドの存在の2つが相まって、ようやく長年の構想が実現したというのが、この業界で関わってきた人の本音ではないでしょうか。

ただし、今回の統合でそれで安泰かというとそうではありません。規模を活かしたコスト優位性を実際にどうやって実現するのか、特に旧世代のラインの統廃合や、余剰となっている人員の削減がどこまで進むのかがまず喫緊の課題となります。そして、コモディティ化して価格下落の波にのまれてしまうのが常のデバイス業界にあって、商品開発サイクルをいかに早く回し、次々を新商品を出すことで平均売価の下落の抑えていくのかも重要なポイントです。そして何より、「モノ売り」というこれまでの枠を超えて新たな地平に踏み出していけるのかというのが、長期的な視点でのチャレンジだと思っています。

産業革新機構が今回出資する約2,000億円という資金を回収するためには、新会社をそれ以上の企業価値をもつ会社にする必要があります。簡単のために仮にPERを10倍とすると、年間200億円の純利益を出し続ける必要があります。新会社は売上高が約7,000億円になる企業ですので、利益率では3%程度です。

デバイス事業では、真のコアデバイスを有する場合は10%強の利益率を確保することは可能であり、そういう意味では、それほど高いハードルではありません。しかし、コモディティ化と価格下落により利益を出すことさえ難しかったという、これまで液晶事業がたどってきた道を考えると、相当なチャレンジとなります。

新会社の経営者(CEO)は外部から招聘されるということですが、この難しい事業のかじ取りを是非期待したいところです。