最近、中国の労働者に関するニュースが立て続けに流れています。ホンダの中国の工場で労働者のストライキがおこり、変速機の生産がストップして車体本体の組み立てにも影響がでました。まだ最終的な決着をみていないようですが、会社側による2割~3割の賃金アップの提案で、事態は収拾に向かっているようです。
また、台湾系企業の製造子会社Foxconnの工場では、安価な賃金と過酷な労働環境(プライバシーの無い集団生活など含めて)により労働者の自殺が相次ぎ、会社側は急遽約2割の賃金アップを決めています。この会社は、世界のセット(完成品)企業でここに生産委託していないところがないというくらい巨大な企業で、AppleのiPhoneやiPadもここで作られているといわれています。
これもニュースで報道されていますが、中国の工場労働者の平均月収は、1万円~3万円くらいです。先進国の水準からすればずいぶんと安いですが、ここ数年は、労働者の確保も困難になってきており、基本的に平均賃金は上昇傾向にありました。ここに、今回のように2割~3割という、通常では考えられない賃金上昇が起こったものですから、今後ますます、上昇傾向が強まると予測されます。
さらに、これはあまり報道されていませんが、賃金だけではなく、労働者の離職率の高さも問題になっています。製造業の工場は「きつい、きたない、きけん」といういわゆる3K職場として、今の中国の若者には人気のない業種になっているのです。その結果、採用コストの増大、労働者の習熟度低下、品質不安定、といった課題を慢性的に抱えています。
これまでは、安い賃金と、地方から都市部に出てくるそれこそ無尽蔵の若い労働力でもって「世界の工場」となった中国ですが、沿岸部での経済発展がめざましい状況のなかで、いつまでも労働力が安価で提供されるわけではありません。都市部の一部の高所得者と工場労働者との過度な所得格差は必ず歪みを生み出します。またそういう安い労働力をベースにして先進国の消費者が安価な製品を享受できているというのは、正常な状況ではありません。ですので、労働者の賃金が上昇するというのは、当然の流れです。
ただし、緩やかな上昇であればいいのですが、あまりにも急激な賃金上昇は、別の意味での歪みをもたらします。短期的には、労働者の所得向上、そして購買力の向上ということで、中国の内需マーケットの拡大につながるでしょうが、中期的に見れば、コスト上昇により、さらにそこに人民元の切上げが加わればなおさら、セットメーカーによるグローバルな生産戦略の見直しが加速し、中国のさらに内陸部に工場が移転するか、中国からベトナムやタイといった近隣諸国への生産シフトが加速するということです。つまり、中国(特に沿岸都市部)での労働需要が急激に減少するということが起こります。
その場合、中国都市部での失業率の増加という次の課題に直面することになるでしょう。また、工場が減るということは、外国人(特に駐在日本人)の減少につながり、不動産業や飲食業への打撃も出てきます。
かつて先進国が10年から20年かけて経験したことを、中国はこの数年の間で経験してきています。中国は、政治と経済のねじれ、という歪みも抱えていますが、はたして急速な社会の変化にたいして、政府が対応しきれるのかどうか。また、北京五輪が終われば破綻するといわれてきた都市部での不動産バブルも、まだ何とか持ちこたえていますが、急激な成長を遂げている国が、一転して成長鈍化に直面したとき、どのような状況になるのか。
いろんな意味で中国のリスク度合いが高まっているように感じています。