引き続き合唱ネタです。合唱団で日本語の作品を指揮する際には、日本語の持つ「語感」をいかに表現するかということに相当気を遣います。


もちろん、言葉を表現する難しさは日本語に限ったことではなく、ドイツ語でも、イタリア語でも、ラテン語でそうで、子音と母音を美しく発音して、それをアンサンブルとしてそろえなければ、自然な言葉に聞こえてきません。とりわけドイツ語は子音の数が多く、日本語にない母音(ウムラウトなど)があり、また日本語とは響きの深さが違うもの(uやo)があったりして、正しく表現するのは大変です。


ただし、日本で演奏する限り観客のほとんどは日本人ですので、その母国語である日本語をいかに表現するかが重要で、その巧拙によって、観客に伝えられるものが違ってきます。旋律の上に自然と言葉が乗っている、あるいは言葉と旋律が一体であるかのように演奏ができれば、音楽の印象と言葉の印象の両方で、演奏を聞く人の心を動かすことができます。


たとえば「さく」という言葉があった場合、「咲く」という場合と「裂く」という場合だと、"saku”という4つの子音・母音それぞれの表現は違うものになるはずで、前者は柔らかく暖かいイメージを、後者は固く冷たいイメージを表さなければなりません。


また、「が(鼻濁音です)・は(Wa)・を(Wo)」などの助詞の表現も重要で、メインの言葉(助詞でない言葉)が引き立つように、つまりこれらの助詞が前面に出てこないように、フレージングの強弱を考えます。


ちなみに、私がもっとも表現が難しいと思う日本語は「うつくしい(u-tsu-ku-shi-i)」です。母音が全てiとu(母音のポジションが正反対)であり、かつ"ts""k""sh"の子音で母音がブツ切れにならないようにしなければなりません。さらに”ts""sh"の子音の表現で、この言葉に込める情感の深さが決まります。また、旋律に応じて"tsu"を無声音(uの母音を発音しない)にするかどうかも判断しなければならず、そういう意味でも難しい言葉です。