到着の翌日、
この日は、受付(申し込んだ大会のビブの受取)があった。
どこのトレラン大会でもそうなのだが、単にイベントがイベントで終わらないような工夫をしている。
どういうことかというと、イベントが経済活動につながっているか、つまりどれだけお金をイベントで地域に落とさせるかということである。
マラソン系のイベントは、前日受付というところが多い。
この大会もご多分に漏れず、前日受付だった。
前日疲れすぎていたのか、3秒ぐらいでノックアウトだったが、翌朝は、日本にいるのと同様、割と早めに目が覚めた。
私自身のライフワークでもあるのだが、まちについたら、まち歩きである。
どんな町なのか、自分の足で歩き、目で確認する。
それで何が分かるわけでもないのだが、自分にとっては大事なルーティンの一つ。
歩いて、30秒、今回のゴールゲートに出くわす。
今回、宿泊先を選ぶのに、確かにスタートゴールの会場に近いところを選んだ自負はあったのだが、これほどまでに近いとは自分でも驚きだった。
前回のUTMBでもずいぶんと感心したのだが、スタートゴールをまちの中心に置く…というのはとても大事だなと思った。
自分自身、マラソンイベントにも、主催者側でいる立場でいたりすることもあるのでよくわかるのだが、このスタートゴールを中心に据えるのって、実はけっこう大変だ。
まずは道路使用の問題。
道路は本来、車両などの通行のためにあるのだから、それを規制するにはさまざまな許可が必要だ。そのために、行政、警察などの機関と折衝しなくてはならない。
ゴールポストは、水曜日にはすでにたっていたので、すべての日程が終わる日曜日まで道路を規制するとすると、約1週間ぐらいは規制をしなくてはならないことになる。
道を規制すれば、迂回ルートの問題や、警備員などの誘導係の問題、標識の問題、さまざまな準備が必要となる。
それらをすべてクリアにしている組織委員会の見えない苦労が見えてしまう…のは私の悲しい性かもしれない。
このゴールをどこにおくのかという課題はイベントを盛り上げる意味ではものすごく重要だなと改めて感じている。
これは、選手側にとっては、スタートゴールにたくさんの人が来て盛り上げてくれるという点ですごくモチベーションがあがるし、それをとりまく人、家族であったり、応援する人であったり、そういう人が多く集まれるも一体感も大事なのだ。
val d'aran by UTMB
VBA(160キロレース)の姉妹レースPDA(50キロレース)のトップ選手ゴールの様子
また、選手は、そこを離れても、ずっとレースは続くが、それ以外の人は、選手が去ってしまったら、手持ち無沙汰になる。しかし、まちの中心にあることで、その前後にカフェやレストランで時間を過ごすこともでき、観光客を目当てにしているお店側も相互にメリットが生まれるという効果があるのだ。
この大会の主催者は、UTMBというフランスシャモニーに拠点を置く団体だが、vielhaというまちがこの大会で経済的な効果も含めてよく理解している賜物なのだなぁと思った。
UTMBでもう一つ感心するのは、選手以外の応援者にもこのイベントを楽しんでもらおうという数々の工夫である。
スタートからほど近いところに、横幅3mぐらいのモニターが用意してある。
レース中、選手は山の中に消えてしまって、容易には応援することができない。
レース中は、実況中継がしてあって、モニターには、選手が活動する様子をある程度その画面でも、伝わってくる。また、選手がつけているタグによって、選手がどのあたりを走っているのかをあるかをUTMBのHPで確認することができるし、コースの何カ所にもyoutubeライブの仕組みを使って、自分のが応援している選手が移動する姿を確認することもできるのだ。
UTMBの公式ページ
こうやって、選手とそれをとりまく人たちが一体になれる仕組み。
もちろんこれらはITに支えられていて、これらを開発するのには相当な費用も掛かっているのだとは想像できる。
だからこそ、この大会は多くのスポンサーに支えられており、参加者以外にも協賛を集めて、運営されているんだろうが…。
もう一つ、UTMBではUTMBビレッジという露店が用意してある。シューズやウェアのメーカーなど、この大会を協賛するメーカーに限られているのだが、グッズの購入をしたりできたりして、まるで地域のお祭りな雰囲気だ。
大会をただ選手だけのものにしないということが何より大事なのだと思う。
大会を長期間にわたって開催するという工夫も特徴だ。
これは、UTMBシリーズというある意味、メジャーなレースだからできることでもあるのだが、大会期間が5日と長い。
val d'aran でも短い距離から長い距離まで、合計5つも期間中にレースを行っている。
こうすることで、大会参加者を増やし、宿泊や、飲食に相当なお金が地元にもたらせれるというプラスの部分、会場の演出にかかる費用を共有化して圧縮させるというマイナス部分の両方を巧みに使い分けている。
特に、ヨーロッパのリゾートはおしなべてそうなのだろうが、ホテル以外にもたくさんのバー、レストラン、カフェが存在し、また道路脇に、イスやテーブルをならべて、みんなけっこうな量のお酒を消費していた。
夕方たくさんの人が行きかうメイン道路。
ちなみに、これほどの町だったから、スーパーマーケットなどもあり、店にはワインはみかけたけど、ビールは見なかった。
路上のバーみたいなところでは、けっこうな人がビールも飲んでいたけど、これらも地域でお金を消費させるための戦略なのかもしれない。
運営面での工夫としては、日本トレランの大会に比べて、圧倒的にコース誘導に人をおいていないということである。
マラソン大会には相当数のボランティアスタッフが必要だ。
まちづくりを兼ねてやっているマラソン大会は日本でも数多いが、少子化の問題で、それらの人が集められない状況が発生しつつある。
トレイルランニングは、山の中を走ることもあり、ロードでのマラソン大会に比べると、交通誘導などのボランティアスタッフは、かなり減らすことができる。
ただ、マラソン大会の名残もあってか、コース誘導にはかなりの人員を配置している部分もまだ多いように思う。
コースのマーキングなどの工夫でこのあたりはまだまだ改善ができる部分なのだと思う。
もし、仮にまちづくりを目的として多くのボランティアスタッフに関わらせたいのであれば、もっと違う部分に人を回すべきなのだろう。
環境への配慮の部分も、工夫が感じられた。
一つは、選手への情報伝達手段は、すべて、デジタルで行われるというものだ。
選手は必須携行品として、スマホの所持が求めらている。
これは、大会の公式案内は、すべてメール等で行われるのに加え、GPSデータを利用した選手の安否確認も含めての安全管理など、あらゆることがデジタルを前提にした運営となっている。
公式パンフレットもつくられていたが、オンラインからのダウンロードだった。
公式パンフレットも1回見れば、あとはゴミ箱行きになるのがほとんどだ。
デジタルパンフレットの中身そのものは相当充実しているので、単に手抜きをしたわけではないことは明らかだ。
そして、もう一つは、選手に提供されるエイド物品の容器はすべて自前持ちということだ。
昨今のレースでは、コップ類の携行を求められることが主流になっている。
トレイルランという競技特性もあるのだが、普通のマラソンよりもスピードが遅いこともあり、エイドでは多くの選手が立ち止まる。
ドリンク類は、自前のコップにボランティアスタッフが注いでくれたり、あるいはタンクがあって、自身でくみとるようになっているので、ゴミが出ないのだ。この点はよりスピードが要求されるマラソン大会では難しいのかもしれない。
今回UTMBで驚いたのは、そういったコップ類に加え、エイドの食事関係も自身で器を用意してください…というものだった。
日本でもかれーや麺類などの提供を行っているエイドはみられるが、紙容器などで提供されていることも多い。
容器やカトラリーも自身で準備されるように求められ、さらにゴミが出ない大会になっていることも驚きである。
つづく