(143)早春のときめき

 
長い冬のトンネルを越えて少し暖かく穏やかな春の陽ざしが見え始めた令和7年です。
また一歩、妻と二人で踏み出してみようとブログを再開しました。
いっきゅうより 
 
 
早春の陽ざしをあびて  近江マキノ メタセコイア並木
 
 
昨日まで降り続いた雪も止み、真っ青な空からふりそそぐ光がまばゆい時の間、、、心洗われる早春の姿があります。
 
  春と聞かねば 知らでありしを
   聞けばせかるる 胸の思いを
   いかにせよと この頃か
   いかにせよと この頃か
                   早春賦♪ より
 
(意訳)
 まだまだ寒いから
 今が春だって聞かなければ気が付かなかったのに
 知ってしまったから、なんだかソワソワしてしまう
 このさわぐ思い、このはやる思い
 さてどうしたものか
 
暦の上ではそろそろ立春、寒さが一番厳しい季節ですが、陽の光のまばゆさに春の兆しが感じられます。
聞けばせかるる 胸の思いを いかにせよと この頃か』のように、草木が芽吹き、花が咲き、鳥がさえずる姿を思い浮かべると、春を待ちわびる気持ちで胸がときめきます。
春は厳しい寒さから解放された芽吹きと出会いの季節なのです。
 
 
 
枯葉の中で芽吹く「まんさくの花」
 
 
   おおかたの 枯葉は枝に 残りつつ
     今日まんさくの 花ひとつ咲く
         皇后美智子さま
    (2011年1月歌会始のお題「葉」の歌より)
 
北国の厳しい冬が終わるころ、雪をかぶった枯れたような枝から鮮やかな黄色い花を吹き出し、春の到来をいち早く知らせてくれるるのが「まんさく」です。「先ず咲く」がなまって「まんさく」になったのが名前の由来と言われています。
 
多くの木々がまだ眠りから覚めない早春のころ、まんさくの花が山を彩り始めます。皇后美智子さまがお詠みになられたように、まんさくの枯葉はしっかり枝に残っています。色あせた多くの枯葉に守られた花は、長い冬に耐え、春の訪れが近いことを静かに知らせてくれます。
 
 
この「まんさくの花」をタイトルにしたドラマがありました。
NHK朝ドラ第27作(1981年)です。
 
NHKアーカイブより
 
秋田・横手で生まれ育った中里祐子(主人公)は、油絵を学びたいと東京の美術大学受験に挑戦するが失敗。そのままクリーニング店に住み込んで浪人生活を送ることに。おっちょこちょいで陽気な女店主の絹江に支えられながら、就職、失恋など数多くの体験を通して、明るくたくましく育っていく女性の2年間を描いた作品です。
 
雪深い横手で春を待ちかねるように小さな花びらを開くマンサクに、温かな家族の物語を重ね合わせた作品で、主人公を支える人たちとのほのぼのとした日常生活が描かれ、多くの視聴者の心に明るい光を灯しました。最終回、祐子は自立の道を求めて外国へ旅立っていきます。
 
まんさくの花言葉は「幸福の再来」です。
 
 
 
雪の中でも咲く黄色い花にロウバイもあります。
 
ロウバイ(蝋梅) 奈良・石光寺にて
 
 
中国では、ウメ、ツバキ、スイセンとともに「雪中四花」の一つに数えられ、雪の降る折にも咲くたくましい花です。
 
 
   蠟梅や 雪うち透(す)かす 枝の丈(たけ) 
       芥川龍之介
 
芥川龍之介にとってロウバイは特別な花だったようで、『蠟梅』というタイトルの短いエッセーを書いています。
 

   「わが裏庭の垣のほとりに一株の蠟梅あり。

    ことしも亦(また)筑波おろしの寒きに琥珀(こはく)

    似たる数朶(すうだ)の花をつづりぬ」

 

と、裏庭にあるロウバイの木への愛を語ります。

明治維新によって没落し、家財を売り払った後に、このロウバイだけが子孫に残されたのです。

文章の結びで、この俳句が詠まれています。

※芥川家は代々徳川将軍家の奥坊主(茶室を管理し、お茶の接待をする仕事)を務めた幕臣でした。

 

 

ロウバイ(蝋梅) 大阪・長居公園にて

 

 

明治の文豪・夏目漱石もロウバイを愛した作家でした。

短編集『永日小品』には、ロウバイが登場する『懸物』という作品があります。
  妻を亡くした老人が、石碑を立ててやりたいと思い、お金が

  ないので先祖伝来の懸け物を売ることにしました。

  最後にもう一度見せてもらいに行くと、「四畳半の茶座敷に

  ひっそりと懸かっていて、その前には透き徹るような蠟梅が

  活けてあった」という話です。

 

 

ロウバイ(蝋梅) 近江・長浜にて
 
 
ロウバイの英語名はWintersweetです。意味は「冬の甘い香り」。
ロウバイは花の少ない季節に香りの良い花を咲かせてくれます。
 
ロウバイの花言葉は「慈しみ」です。
 
 
 
 
水仙 淡路島・灘黒岩水仙郷にて
白い水仙の花言葉は「神秘」です。
 
 

海からの寒風が吹きつける中、香り高く群れ咲く水仙を眺めていると、イギリスの詩人シェリーの「西風に寄せる歌」に出てくる句、

『冬来たりなば 春遠からじ』が頭をよぎりました。

つらい季節を耐えぬけば、必ずや思い叶うときが来る、という意味ですが、なぜかこの句の後に『強くなければ生きていけない、優しくなければ生きる価値がない』という言葉が続きました。

 

 

優しい人は強いとよく言われますが、「強さ」は厳しい苦節の中でも負けずに立ち上がった数だと思います。 何度でも立ち上がる、それが強さ。 そして優しさは涙した数。 
早春にふりそそぐまばゆい光に心洗われる故かも知れません。
 
 

 

福寿草 近江マキノにて
花言葉は「幸せを招く」です。